トップページ

トップ > 全国大会 > プログラム委員会

プログラム委員会

第54回全国大会プログラム委員長挨拶

プログラム委員長 坂爪 洋美

労働力減少時代の人事労務管理

労働力に関する様々な推計値が示されたこと等を背景に、2023 年は「労働力不足」という言葉に対する注目が一段と高まりました。日本の人口は2008 年をピークに減少傾向にあるものの、女性ならびに高齢者の就業率の向上に伴い、労働力率が緩やかながらも上昇傾向にあることから、実は労働人口自体はこの5 年間でほとんど変化していません。しかしながら、私たちが日常生活で見聞きするニュースからも、労働力不足が日本の大きな問題になりつつあることを実感します。

今後、生産年齢人口の減少が加速する中、これまで維持されていた労働力人口は本格的に減少し始め、今以上に深刻な労働力不足が生じることが予測されます。もちろん、AI やロボットの活用による労働力の代替という方法も有効な対応策の1 つではありますが、代替可能な仕事ばかりではないことも事実です。従って、業種・職種によって程度の違いはあれども、多くの企業は、よりコストをかけて、さらにはこれまでとは異なる方法で、人材確保を模索することになると考えられます。その際、もう1 つ注目しなければならないのは、労働力は各年代で均等に減少するのではなく、若年層で顕著な減少が生じると予測されていることです。

このような展望を踏まえた時、企業の人事労務管理にはどのような対応が求められるのでしょうか。例えば、働き方のより一層の多様化や賃金の引き上げを通じて、労働力率をこれまで以上に高めるような取り組みも考えられます。また、若年層が減少する中で、新卒一括採用がこれまで同様人材確保の中核的な手法として存在し続けられるのか、といった議論も可能でしょう。

そこで今大会では、「労働力減少時代の人事労務管理」というテーマの下、今後の人事労務管理のあり方について検討したいと思います。大会初日のシンポジウムでは、日本における労働力不足の実態と今後の展望を確認した上で、特に採用と退職の管理に注目し、日本企業の人事労務管理の現状と、今後の課題や展望について検討する予定です。

大会2日目の午後には、「企業・従業員を対象とした定量調査の方法」というタイトルでリサーチセッションを開催します。企業ならびに従業員を対象にしたアンケート調査は、実証的な人事労務研究の中心的な研究方法ですが、その方法には多様性があります。定型化されていると捉えられがちな定量調査においても、調査票の設計方法やデータの集め方に関する考え方は、学問領域ごとに大きく異なり、本学会のような学際的な学会で眼にする手法は多岐にわたります。そこで、経済学、社会学、組織行動論(心理学)、経営学の研究者に各分野での定量調査の方法を語っていただき、他の学問領域の研究手法をお互い理解する機会を作ることとしました。

シンポジウムならびにリサーチセッションでは、それぞれのトピックについて詳しい研究者ならびに実務家をお招きし、それぞれの立場から課題を含めた現状と今後の展望について語り合う場にしたいと考えています。

会員の皆様の第54 回全国大会への積極的な参加を、プログラム委員会一同心よりお待ち申し上げております。



第53回全国大会プログラム委員長挨拶

プログラム委員長 佐藤 厚

ポストコロナのHRM
-ポストコロナの働き方を巡る研究者・使用者・労働組合の課題-

新型コロナウィルスの世界的流行は、日本企業のHRM(人的資源管理)にも大きな影響を与えました。マクロ的には業種間・地域間等で労働力の移動が促進され、ミクロ的にはテレワークの導入により人びとの働き方や職業生活に変化の兆しが表れてきました。ストレスやメンタルヘルス、ワークエンゲージメントなど、労働者の心理面への影響も指摘されています。また企業のなかには、コロナ禍を機に正社員の雇用から非正規従業員や業務委託へと就業形態を切り替えたり、いわゆる「ジョブ型雇用」を取り入れたりする動きもみられるところであります。

企業活動に目を転じると、業種や職種によって生産性にマイナスの影響が出た企業が存在するいっぽうで、ほとんど影響を受けなかった企業や、逆にプラスの影響があったという企業も少なくないといわれます。また同一の業種・職種でも影響にはばらつきが見られる。背景にはDXなど技術的な要因のほか、人事戦略を含む社会的な要因も作用していると考えられます。

コロナ禍が広がって3 年が経過した現時点において、日本企業のHRM はどのように変化しつつあるのか、またその変化はいかなる「功」と「罪」をもたらしたのでしょうか。さらに、そこには欧米などと比較して違いがみられるのでしょうか。日本労務学会として研究し、議論しておくべき課題は少なくないと思います。また学会として、研究成果を何らかの形で社会に発信する責任があるのではないでしょうか。

大会では、国内外で行われた定量的・定性的な研究成果をもとに、現時点における変化の趨勢を明らかにする。同時に、その背後にはどのような人的資源管理のポリシーやロジックが存在するかを解明したく思います。さらにコロナ禍を機に日本の人的資源管理がどの方向に舵を切るかを予測するとともに、問題点や克服すべき課題について、質の高い研究成果が報告されることを期待します。

このような問題意識から、本大会のシンポジウムでは、研究者のほか労使の代表も交え、ポストコロナのHRM について多面的に議論し、学会のみならず産業界や労働界、ならびに一般社会に対して問題の所在や見解を示したいと思います。

なお、シンポジウムのテーマおよび自由論題とは別に、プログラム委員会による自主企画を考えています。今回は、「タレントマネジメントとキャリア自律」についてみなさんとともに考えてみたいと思います。近年、タレントマネジメントが注目されており、企業の取り組みも活発化しています。タレントマネジメントは次世代の幹部育成を含めて個々人の才能の開発と発揮などを念頭に、企業主導で進められるキャリア管理の一種といえます。一方で、キャリア論で律的キャリアが唱えられ、それへの認識も高まりつつあります。そこで、組織主導のキャリア管理であるタレントマネジメントは自律的キャリアを相反するのか、あるいは共存の道はあるのか、について議論したいと考えています。

当日は、様々な研究者、実務家をお招きし、それぞれの立場から現状の課題と今後の展望について本音で語り合う場にしたいと考えています。

会員各位による第53 回全国大会への積極的な参加を、心よりお待ち申し上げております。



第52回全国大会プログラム委員長挨拶

プログラム委員長 石川 淳

ニューノーマル時代の働き方
-コロナ禍を経た日本企業の働き方の変化への展望-

我々は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)という歴史的な危機に直面しました。 世界中のほとんどの人が、経験したことがないパンデミックを経験したのです。 残念ながら日本も例外ではなく、これにより社会・経済活動に大きな打撃を受けました。

しかし、このような危機は、我々にこれまでの常識を問い直す機会にもなりました。 例えば、大学の授業のあり方にも変化が生じました。 これまで対面が当たり前だった授業に、オンラインやオンデマンド、ハイフレックス型といった新しい授業形態が導入されることになりました。 これによって、授業形態ごとに教育効果が異なることがわかり、 教育効果が高いプログラムを展開するために効果的な授業形態を検討するきっかけになりました。 また、コロナ禍においては、企業における会議もオンラインが中心になりました。 これにより、オンライン会議は、対面による会議に比べて微妙なニュアンスが伝わりづらかったり、 疲労の蓄積度合いが高まったりするなどの問題があることが明らかになりました。 しかし一方で、オンライン会議が、移動時間や空間の節約になることが改めて認識されました。 世界中のあらゆる人と、移動時間や空間の制約を越えて議論を行うことができることがわかったのです。

当然のことながら、このような変化は働き方にも影響を及ぼしました。 特に、必要性が指摘されてきたテレワークは、コロナ禍を契機に一気に進むことになりました。 採用でさえも、多くの企業がオンラインを用い、内定式や入社式などもオンラインで実施する企業が増えました。 このような変化は、労働時間の管理に留まらず、働き方の自律性や人事評価の基準、人材育成の方法などにも大きな影響を及ぼしています。

もちろん、働き方の変化は、働く側の人の生活にも大きな変化をもたらしました。 毎日出社することが当たり前でなくなると、必ずしも職場の近くに住む必要性は高くなくなります。 また、自宅で仕事をすることで、家事・育児等との両立が行いやすくなる反面、私生活との切り替えや労働時間の長期化、 疲労の蓄積などの問題が生じるようになりました。 このような変化は、ひいては企業と働く人とのこれまでの関係にも大きな変化を及ぼす可能性があります。

コロナ禍を機とした働き方の変化は、今後、どのようになっていくのでしょうか?コロナ禍が収束すると同時に、 元のような働き方に戻す企業もあるでしょう。 一方で、コロナ禍が収束しても、オンラインを活用したテレワークとそれに適したマネジメントを積極的に活用していく企業もあるでしょう。 場合によっては、そのどちらでもない新しい働き方を模索する企業も出てくるかも知れません。 日本企業の競争力を高めるためにも、また、働く人のwell-being を高めるためにも、 新しい時代に適した新しい働き方を検討することが求められるといえるでしょう。

このような問題意識から、本大会のシンポジウムでは、コロナ禍を契機とした働き方の変化について、 実務的視点および学術的な視点から議論したいと考えています。 会場の皆様と一緒に、新しい働き方のあり方を考えていきたいと思います。

なお、シンポジウムおよび自由論題とは別に、プログラム委員会企画を考えています。 今回は、日本労務学会誌への投稿について、改めて様々な視点から検討してみたいと考えております。 国内外に様々な投稿先がある中で労務学会誌に投稿する意義を考えたり、 また、採択されるプログラム委員長挨拶ために投稿者が心がけるべきことを考察したり、さらには、 投稿するための時間確保や知的生産術などを共有したりしてみたいと考えております。 このような検討を通じて、日本労務学会としてこれから何を為すべきか、 また、人事労務の研究者として今後どのように活動していくべきか、 といった点について相互に考えを深めていくことを目指します。 当日は、様々な研究者をお招きし、それぞれの立場から現状の課題と今後の展望について本音で語り合う場にしたいと考えています。

会員各位による第 52回全国大会への積極的な参加を、心よりお待ち申し上げております。



プログラム委員長挨拶

労務学会第51回全国大会
プログラム委員長 江夏 幾多郎

日本の人事労務研究の将来展望

会員各位もご承知の通り,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴い,2020年7月に神戸大学で開催予定だった第50回全国大会は,オンライン形式での開催となりました。 申し込みや参加いただいた方々,運営スタッフの理解や協力のおかげで,大きなトラブルもなく,初めての試みをやり遂げることができました。

大会の後に行われたアンケートによると,およそ50の自由論第報告,総会,そして懇親会と,用意したすべてのプログラムについて,概ね好意的な評価をいただいております。 また,プログラムの運営,参加者同士の接点や交流のあり方などについて,様々なフィードバックや提言をいただいております。 第50回全国大会に関わっていただいた方々全てに,改めて御礼申し上げます。

ただし,第50回全国大会では,学会創立50周年および50回目の全国大会という節目を象徴するいくつかのプログラムの実施を見送りました。 オンライン形式での年次大会開催という緊急的な事態を乗り切るための苦渋の決断でありました。

こうした「宿題」を第50回全国大会の実行委員会/プログラム委員会が抱えている事を踏まえ,第51回全国大会についても神戸大学が主催し, 学会創立50周年にふさわしい発信を行うように学会執行部から打診があり,謹んでお受けすることになりました。 2年続けて同じ大学が主催校を担うという前例のないことではありますが,寄せられた期待に十分以上に応えられるように努めてゆきますので,会員各位による変わらぬ支援をお願い申し上げます。

第51回全国大会についても,オンライン形式で実施します。 多くの大学で,講義等の一部で対面形式が再導入されている事例も多くあります。 ただし,様々なバックグラウンドを持つ方々が一堂に会する学会全国大会においては,対面形式の導入はリスク管理上時期尚早であると判断しました。 また,数百名の人々が参加する会合を対面での開催するための制度的基盤が主催校にないという現時点での状況もあります。 対面開催を希望しておられた方々の期待に添えないことについては心苦しく思いますが,ご理解いただければ幸いです。

プログラムの趣旨については第50回全国大会を継続するため,統一テーマについても同様のものを継承しております。 詳細の説明については繰り返しになるので割愛いたしますが,元来が学祭的で,産学の密接な関わりの中で進められるべきであるという人事労務「研究」の理想について想いを新たにし, 研究者一人ひとりがそれぞれの形で実践し,その成果を交換/交歓させられるような場を設ける一助になりたいと思っております。

自由論題とは別に開催される,プログラム委員会企画について,現段階での構想をお伝えします。 まず,特別シンポジウムでは,複眼的に事象を捉える醍醐味を学会全体で共有するため,学際的な視点に立って雇用,労働/仕事, 人事労務について向き合ってきた国内外の著名な研究者の方々に登壇していただきます。 その他,学会活動をリードする若手・中堅研究者の手による学会設立50周年特別研究企画,本年逝去された小池和男先生の事績からの学びをやや意外な視点から展望する企画も実施します。

オンライン学会の課題として挙げられた,参加者同士の時に偶発的な接点や出会いの機会の確保についても, 基盤の整備,さらには参加者同士の主体的な働きかけの促進を通じて,何とか手当てしたいと考えております。 昨今のような状況においては,こういった措置自体も,プログラムの一つとなるのかもしれません。

前回大会以上の会員各位による積極的な参加を,心よりお待ち申し上げております。

プログラム委員長挨拶

労務学会第50回全国大会
プログラム委員長 江夏 幾多郎

日本の人事労務研究の将来展望

日本労務学会が1970 年に設立され、翌1971 年に立教大学で第1 回大会が開催されてから、およそ50 年が経ちました。 この50 年間の日本における、雇用、労働/仕事、人事労務(管理)の動きを見ていると、変化が目覚しい部分もあれば、そうでない部分もあります。現在生じていることをあえて要約するならば、

1.人事労務における既存のパラダイムの支配的地位は失われつつあるが、別のパラダイムがそれに替ることは想定しづらい。

2.パラダイム不在の中では、既存の考え方に即したものも含め、組織と個人がそれぞれの「ありたい姿を模索し、そのために柔軟に連携しようとしている。

3.しかし、多様かつ柔軟な雇用、労働/仕事、ひいては人事労務の図式はまだ確立していない。

とでも言えるでしょう。

こうした中では、人事労務「研究」に携わる者が人事労務の実務に対して何をなしうるのかについて、研究者自身が自問自答しつつ、研究に直接携わらない人々と積極的に対話をすることが求められます。 そして、学会という場には、そうした活動の求心力となることが強く期待されます。

近年の学会では、人事労務をめぐる特定の事象や理論、ディシプリンに特化した研究が多くを占めるようになっております。 その結果として、学会全体としては多種多様な研究を生み出せているものの、個別の研究活動のレベルでの学際性を追求する動きが弱まっています。 それぞれの研究成果が散発的なものにとどまりがちな中、ともすれば表面的・短期的な視野に陥り、人事労務の実務に対する深い啓発が行われにくくなっていると批判されることもあります。

では研究者は何をなすべきなのでしょうか。まずはっきりさせるべきことは、人事労務研究という学問領域の着実な発展のためには、特定の事象や理論、ディシプリンに特化した研究が蓄積されることが不可欠だということです。 議論を絞り込んで精緻さを手にした研究は、人事労務という事象を具体的かつ深く洞察するための手がかりとなります。

ただし、特化に傾斜するだけでは、研究者間の対話や交流の機会が乏しくなってしまいます。 現実の人事労務の複雑性を理解できる鍵は、研究者間の対話や交流、あるいは個別の研究が持つ複眼的な視座の中にこそあるのではないでしょうか。 人事労務の複雑性を説明しつくす特定の理論をもはや夢想できないからこそ、研究者には、複数の視座を結びつけたり重ね合わせたりする試みが求められるでしょう。 そして、これらのアクションを「手っ取り早く」行える場が、学会の年次大会なのではないでしょうか。

研究者がこれから何をなすべきかを考える場を設けたいという思いから、第50 回年次大会のテーマに「研究」という2 文字を含めました。 そして、そうした思いのもと、プログラム委員会としていくつかの企画を用意しました。まず、特別シンポジウムでは、複眼的に事象を捉える醍醐味を学会全体で共有するため、学際的な視点に立って雇用、労働/仕事、人事労務について向き合ってきた国内外の著名な研究者の方々に登壇していただきます。 その他、人事労務の実務を「その場で」学術的に解剖・解釈する企画、複数の若手・中堅研究者の手による学会設立50 周年特別研究企画、本年逝去された小池和男先生の事績からの学びを展望する企画も実施します。

このように、プログラム委員会が用意した企画が例年と比べて多くなります。 その上、自由論題枠での会員による最新の研究報告も例年通り行います。 第50 回大会の節目にふさわしい知的体験を質量両面で大会参加者の方々にしていただけるよう、プログラム委員会として準備に励む所存です。 六甲山麓の神戸大学にお越しいただく皆様と、オリンピックを前にした世間の喧騒をかき消すような、学術の熱気を作り出したいと強く念じております。

プログラム委員長挨拶

労務学会第49回全国大会
プログラム委員長 梅崎 修

「企業は高付加価値人材をいかに確保するのか? 一採用・育成・アライアンス一」

多くの企業の人事担当者の強い関心は、高付加価値を生み出す優秀な人材(=高付加価値人材)を確保できる人事施策であると思います。 企業の人材確保には、様々な人が対象になりますが、特に高付加価値人材に関しては、その確保が企業の競争力を決定するので、関心が集まります。高付加価値人材を如何に採用し(BUY)、如何に育成するか(MAKE)について、日々、人事損当者たちは工夫を凝らしていると言えます。

一方、そのような人材確保競争を取り巻く環境は厳しくなっています。 人口減少による慢性的な入手不足、人材獲得のグローバル競争、AIに代表される技術革新の加速化によって求められる能力が変化することがあげられます。 今回、高付力緬値人材の確保について、皆さまと一緒に議論したいと思い、プログラム委員会では、「企業は高付加価値入材をいかに確保するのか?一採用・育成・アライアンス」という統一論題を企画しました。 はじめに、そもそも「高付加価値人材」とは誰なのでしょうか(WHOの問い)。企業別や産業別に高付加価値人材の定義も異なるのではないか。どのような環境や仕事で、一人もしくはチームで人材は能力を発揮しているのか、そのような能力発揮は企業の利益につながっているのかを報告者の皆様と一緒に議論したいと思います。 現場実践や調査分析結果に基づいて様々な人材像が議論されることでしょう。

さらに、その上で、そのような高付加価値人材がいかに確保されるかについて議論したいと思います(HOWの問い)。 プログラム委員会では、副題に採用・育成・アライァンスという三つの言葉をあげることにしました。

この三つの方策は、それぞれ重要ですが、従来の大企業を中心とした日本的雇用システムにおいては、「育成」が重視されてきたと言えるでしょう。 ご承知のように、1969年に日経連が刊行した『能力主義管理一その理論と実践』は、「人間尊重」と呼ばれる人材の成長に対する楽観的見通しと育成システムに対する自負がありました。 なかでも新卒一括採用は、 OJTによる育成施策と補完的関係にあり、その効果を高めてきたと言えます。 ところが、1990年以降の「成果主義」は、能力観の問い直しと市場の接続を目指した人事施策に揺れ、日本企業の人事担当者たちは舵取りに苦労するようになりました。 また、2000年以降、育成以上に「採用」の施策への注目が集まりはじめたのです。

しかしその一方で、従来の日本的雇用システムが完全に消滅するとは考えられません。 育成と採用の組み合わせが模索されていると思います。 例えば、ピーターキャペリ(著),若山由美(翻訳)『ジャスト・イン・タイムの人材戦略一不確実な時代にどう採用し、育てるか』日本経済新聞出版社(Talent on Demand ; Managing Talent in an Age of Uncertainty, Harvard BusinessScheol Press, 2008) の主張もあれば、H本の長期雇用と成果主義の相性は良くて、新卒採用を中心とした長期雇用、長期競争という基盤は変わらないという主張もあります。

今回、副題に採用と育成という言葉以外に、「アライアンス」という言葉を追加しました。 この言葉には様々な理論的含意や実践が含まれます。 例えば、人材確保を1つの企業だけの施策に止まらず、企業間の連携で行うという試みは、既にいくつか企業で行われています。 規模が小さいから繋がるというような消極的連携ではなく、採用も育成に対しても積極的な連携による新しい手法が開発されています。 さらには、複業者やフリーランスに企業の中核的価値創造に参加してもらうなど、従来の雇用関係の枠を超えたような企業と人材の連携の形も益々増えるでしょう。

環境変化の中で様々な人事施策の変化の掴み、その原理を考えること、さらにその将来ビジョンを提示することは、日本労務学会という「場」だからできることではないでしょうか。

本シンポジウムでは、企業の実務実践と労務研究や組織研究の視点から、これらの問いについて議論したいと考えています。 会場の皆様が巻き込む、盛り上がる議論になるでしょう。 ぜひ皆様、2019年6月29・30日に慶鷹義塾大学で開催される日本労務学会第49回全国大会にご参加いただきますと幸いです。

プログラム委員長挨拶

労務学会第48回全国大会
プログラム委員長 守島 基博

「変化する産業構造と働き方」

現在の労働を取り巻く環境は大きく変化しています。経済全体における製造業・モノづくり産業のウェイトが減少し、 サービス業や知識産業などのその他の産業がより重要な位置を占めるようになるなかで、そうした産業での生産性向上や働き方の改革が大きな課題となっています。 また、ICT、IoT、AIなどの進展、さらに急速に進む経済と経営のグローバル化なども産業構造の変化に影響を与え、 ひいては働き方や人事管理のあり方に大きな影響を与えています。また働く側も、人口の減少や働く人の意識変化などにより、働き方や人事・労務管理の変革を求めています。

このように「働く」を取り巻く環境が大きく変化するなか、今回の大会で重視をしたいのは、ひとつには、サービス業、特に医療・介護やホスピタリティなど現在雇用が増大しつつある産業における労働です。 さらに、法律家やコンサルタントなどプロフェッショナル人材を中核としたサービス業やいわゆる知識産業での労働も重要なテーマです。

サービス業、特に医療・介護やホスピタリティ産業などでは、雇用契約のあり方、採用から退出までの一連の流れ、さらにはいわゆる「感情労働」と呼ばれる側面の重視など、 これまでの労務・人事管理研究が前提としてきたものとは大きく異なった状況のなかで労働が提供されています。 また、様々な産業の知識産業化は、イノベーションや知識創造を重要な成果物ととらえ、このアウトプットの質量両面での最大化を狙った人事・労務管理を求めるようになってきています。 さらに、こうした産業における労働は、働く人のキャリアや生活といった側面にもこれまでとは異なった含意をもたらします。

だた、残念ながら、ホスピタリティ産業、知識産業などにおける人事管理の知見はあまり蓄積されていません。 これまで多くの研究資源が投じられてきた人事・労務管理研究は従来型の産業や労働者意識、技術水準を前提としたものが多く、 現在重要性が増していると言われる産業での労働やその管理に関する研究的知見が豊富に蓄積されていないのが現状です。 特にわが国では非正規雇用などこうした産業における雇用形態に注目した研究を除いては、丁寧な研究が乏しいのが現状です。

今回は、「変化する産業構造と働き方」というテーマのもとに、これまであまり注目されてこなかったサービス業、ホスピタリティ産業、プロフェッショナルサービス業などでの労働を考えてみたいと思っています。

またもうひとつ、福岡開催にあたり、働く場所としての地方の位置づけも取り上げたいと考えます。「地方」という表現がよいのかはわかりませんが、地方創生が叫ばれる中、大都市圏以外で働くことの意義が強調されることが多くなりました。大都市圏を離れることで失われる面と同時に、生活の質という側面からは、大都市圏にはない利便性があるのも事実です。ただ、その反面、地方での労働需要が充足されない状況も頻繁に指摘され、大都市圏からそれ以外への地域への労働力移動は遅々として進まないという現実もあります。地方での働き方の水準を高め、労働供給を増やしていくために、人事・労務管理研究は何ができるのでしょうか。

こうした問題意識に基づき、今回の労務学会では、産業構造やその他の変化が労働や働き方に及ぼす影響や新たな経済構造や地方重視の中での労働やその管理を考えてみる大会にしたいと考えています。

ページのトップへ戻る