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学会賞・優秀論文賞 授賞作 講評
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2011年度 単行本の部
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『新興大国ロシアの国際ビジネス−ビジネス立地と企業活動の進化−』
今井雅和(専修大学)著
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本作品はロシアの国際ビジネスに関するテーマを扱った極めてタイムリーな著作である。全体として新興大国ロシアの立地資産を海外企業やロシア企業がいかに活用し国際戦略を展開しうるかについての検討がなされている。ロシアは中国・インドに比べとりわけ日本の読者にとって馴染みが薄いだけに、本書出版の意義は大きいと考えられる。著者の実務体験をもとに多くの関連データ等を精査しながら、事例をベースに細分化した仮説を実証していくプロセスは説得力がある。
特に本書の優れた点はロシアのビジネス環境、制度に関する整理と、個別企業の具体事例の検討にある。本書の第1部と第3部は以下のような点で読み物としても面白い。
第1は、ビジネス制度という視点でロシアビジネスを解明している点である。新興市場ビジネス研究において、制度分析、取引コスト、執行という視点での研究が不可欠である。本書は、新興市場ビジネスの先駆的研究として高く評価できる。
第2は、ロシア企業およびロシアでの日系企業の事例研究を行なっており、優れた知見を導き出している。日本では、ロシアを対象とした事例研究は極めて少ない状況もあり評価できる。
第3は、新興市場での国際ビジネスの新しいフレームワークを提案している点である。「ビジネス立地(L)と企業活動(F)が絡み合いながらそれぞれ進化し、相互に影響を及ぼし合いながら国際ビジネスも進化する」という概念はリスクの多い新市場を開発していくフレームワークとして新規性があり、従来の折衷パラダイム論等の学説を超えた包容性がある。また実際のビジネスへの応用性が高く、マフィアや賄賂が絡むリスクの多い市場で国内外の大企業やうどんやチェーンのベンチャーがどのようにビジネスを展開していくかを、仮説のフレームワークを基盤に分析しているのはわかりやすい。
その反面、本書には改善の余地もいくつか残されている。第1は、第2部で一般的国際ビジネス理論を論じているため、本書全体の流れがあまりスムーズでない点である。理論的考察の中には新興国、中でもロシアの文脈と直接関連性のないものまで含まれているため、それらを本書の中盤に挿入することに違和感が残る。
第2に、本書の主たる読者層が学者・専門家なのか実務家なのか、もう少し絞ることにより、本書の焦点もより明確となるかもしれない。もちろん、今回は筆者が両方をターゲット層に設定していることは承知しているが。第3に、提案している仮説のキーワード「FLフレームワーク」のFやLが何を指すのかが明記されておらず理解するのに時間がかかった点である。仮説を前面に出すべきではなかっただろうか。
このようにいくつかの課題があるとはいえ、本書がロシアのビジネス環境と制度という今日的テーマを扱ったタイムリーな著作であることには変わりはない。研究書としては、第2部の理論的考察の扱いをもう少々工夫していただくことが望ましい部分が残り、課題がないわけではないが、それらは本書のオリジナルな貢献を損なうほどのものではない。
本授賞に心からの祝意を申し上げるとともに、理論的視点からの国際ビジネス理論構築への今後の一層の研鑽を期待する。 |
2011年度 優秀論文賞
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Exploiting Co-opetition in R&D Organizational Design
: A Case Study of Mobile a Handset Firm in Korea
羅嬉頴(ナ・ヒギョン) 京都大学大学院経済学研究科 博士後期課程
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本作品は、韓国におけるMobile Handset企業の事例研究に基づいて、研究開発の組織デザインをコーペティションの視点から分析し、その成長の要因を明らかにしたものである。すなわち、グローバル化が進んだ携帯電話産業において、主として本国におけるR&D組織の一部を重複・並列させ、2つのR&D組織間の競争と協調のメカニズムを十分に発揮させることで、企業が製品開発において優位に立ちうることを、韓国モビリオン社の事例分析から明らかにしている。いわゆる“co-opetition”の概念を中心に、その周辺も含めて先行研究の考察が行われ、問題が導出されている。
事例分析では、著者自身の調査による一次データと客観的な二次データにもとづき、モビリオン社の携帯電話ソフトウェア開発プロセスにおける2つのR&D組織間の競争と協調の所在、適用範囲、両者の関係性などが詳細に記されている。そこから、R&D組織に埋め込まれた競争と協調のメカニズムの諸要素と製品開発プロセスの能力向上との関係を具体的に知ることができる。その帰結から、こうした重複・並行型のR&D組織体制が、韓国の携帯電話産業のように、グローバル化が進み、本国の顧客企業が世界市場において寡占的地位を占めるような産業分野においては、競争上の1つの有用な手段になりうることが示唆される。
むろんこの結果を他産業に適用する際には、多くの環境条件の検討が必要である。しかしそのこと自体は、本稿の仮説発見的な研究としての有用性を減じず、ここで記された仮説や分析内容は、国際経営の戦略・組織研究において重要なインプリケーションを有すると考える。
いくつかの課題もある。第1に、事例の対象企業は確かに多国籍企業で、議論と結論の部分でも僅かに国際化に際してのインプリケーションについても触れられている。しかし、分析対象となっている組織は基本的に国内の組織であり、しかも、図2(この図は本論文の研究内容を示す重要な図)において、海外子会社との関係を議論しない図が描かれ(矢印がない)、その理由を注において国内のHeadquarter(a)と(b)の組織(なぜ国内にHeadquarterが2つあるのかも不明)の関係を強調するためとして、自ら国際ビジネスに関する議論を放棄しており、本論文は国際ビジネスに関する論文とはいえないかもしれない。第2に、コーペティションの視点からの分析は、本論文の1つの特徴であるが、類似の議論は、研究開発分野では既にMulti-Project
Management、Simultaneous Engineeringなどの中でなされ、日本の自動車企業の強さはそうした研究開発組織のデザインにあることが明らかにされており、それほど目新しい分析ではない。第3に、結論において、「コーペティションは、特に本国の技術水準が他国と比べ、高い水準にある状況下で、(中略)、効果を発揮することが予想される」とあるが、それでは本国の技術水準の高さはどこからくるのか、これは因果関係が逆で、コーペティションが柔軟に行われているからこそ本国の技術水準が他国と比べて高くなっていると考えられる。
それらの課題にもかかわらず、本作品は優秀論文賞に値するものである。本授賞に心からの祝意を申し上げるとともに、理論的展開を踏まえての国際ビジネス研究への今後の一層の研鑽を期待する。
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