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P2Pレンディング・サービスにおけるビジネスモデルの変化
-米国プロスパー社の事例から-

藤原 七重
千葉商科大学

本稿は米国のP2Pレンディング・サービス「プロスパー(Prosper.com)」の変遷から、P2Pレンディング産業におけるビジネスモデルの変化とその要因について考察することを目的としている。
 インターネットを介して個人同士が結びつき金銭貸借市場を形成するというP2Pレンディング・サービスは、日本においてはソーシャルレンディングという名称で広まっている。実態はパーソナルファイナンスの一形態に過ぎないが、金融によって貧困という社会的な問題が解決できるというグラミン銀行の成功譚とソーシャルネットワークの普及が同時期に行われたことで、インターネットサービスをベースとした仮想コミュニティを通じて個人同士がつながり、信頼や共感を媒介として、既存の金融サービスから排除された弱者に手がさしのべられるという二重の意味で「ソーシャル」な金融サービスと見なされる傾向にあった。しかし、近年は、同業者間における競争が激化しており、よりシステマティックに貸し手と借り手をマッチングし、効率的にローンを成立させるという点に比重が置かれつつあり、P2Pレンディングも従来の金融サービスと同じように効率を追求するビジネスへと姿を変えつつある。
 この傾向が最も顕著なのは、アメリカでP2Pレンディング・サービスを展開するプロスパーにおける変化である。同社は、当初は金融弱者を含む多様な利用者に対して開かれた市場を構築し、ユーザー同士のソーシャルな繋がりをベースとしたサービスを展開していたが、貸倒の増加に苦しみ、サービスの中断を挟んでポリシーを転換した。現在は中堅以上の借り手を対象とした貸付を効率的に進めることで、貸し手である投資家へのリターンを約束する金融サービスへと姿をかえた。本稿は、同社のケースを通じて、P2Pレンディング・サービスの変遷とその背景になにがあったのかを考察することを目的としている。とくに、ポリシーを転換する以前の同社の戦略に焦点をあて、検討することで、当初の「ソーシャル」というイメージが、かえって事業の範囲を曖昧にし、市場のあり方が歪められたという側面を浮き彫りにしたい。


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