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研究奨励賞 当年度受賞者

日本労務学会賞(研究奨励賞)審査結果報告

日本労務学会賞(研究奨励賞)審査委員会における厳正なる審査の結果、2017 年度の研究奨励賞が下記の2つの報告に授与されました。 ここに受賞者のお名前・報告題目ならびに審査報告を記して、その栄誉を称えます。所属は受賞時のものです。

[受賞者名]
岸野 早希 氏(流通科学大学)

[受賞報告題目]
ワーク・ライフ・ファシリテーションのクロスオーバー効果に関する研究

[審査報告]

本論文では、直属の上司と部下との二者関係に注目し、上司のワーク・ライフ・ファシリテーション(仕事と私生活間のポジティブな相乗効果)が部下のワーク・ライフ・バランス(以下、WLB) に与えるクロスオーバー効果を明らかにしたものである。同時に上司と部下との関係性がクロスオーバー効果に与える影響についても明らかにしている。

発見事実として、第1に上司のワーク・ライフ・ファシリテーションは部下のWLBに直接に影響することはないものの、 上司と部下との関係性を媒介して、間接的に影響することが明らかになった。 つまり、上司と部下との関係性が良好である場合には、上司のワーク・ライフ・ファシリテーションが部下のWLBにポジティブな影響を与えるということである。 従来の研究ではネガティブな感情のクロスオーバー効果が確認されることが多かったが、本研究では、間接的ながらも、肯定的なクロスオーバー効果が発見されたことは高く評価できる。 第2に上司と部下との関係性が直接部下のWLBに影響を与えることが明らかになった。 上司との関係性が良好な部下は、そうでない場合に比べてWLBに対する認識が良好であるということである。 働き方改革が求められる昨今の社会情勢を鑑み、WLBのコントロールという観点から上司との関係性がWLBの重要な規程要因であることが示されたことも実践的意義が高いといえるだろう。

本論文の強みとして、以下の2点を特に指摘できるだろう。第1に、いわゆるWLB研究において、個人内のスピルオーバー効果ではなく、 他者との関係を考慮したクロスオーバー効果に関する実証分析を行ったことである。 従来のWLB研究においては、一個人の仕事と生活との領域間での相互作用を分析することが一般的であったが、他者とのクロスオーバー効果を検証している点で、本論文の独創性を見ることができる。 第2に、上述したクロスオーバー効果に関する先行研究が主に夫婦間を想定していることに対し、氏は職場のもっとも重要な他者関係である上司との関係性を分析モデルに取りいれていることである。 上司との相互関係に関しては、従来よりLMX理論などで活発な議論がなされているが、そうした組織行動論での重要な変数をWLB研究に取り入れることで、本研究は理論的にも実践的にも質の高いものとなっていると評価できる。

以上のように岸野氏の研究は、組織行動論の研究者にとっても、人的資源管理論の研究者にとっても期待値の高い研究であるが、改良の余地がないわけではない。 例えば、上司のワーク・ファミリー・ファシリテーションが部下のWLBに直接影響するという仮説は支持されなかった。 先行研究の少なさゆえ、探索的分析に取らざるを得ない側面もあるが、本論文での主要な仮説であり、概念の操作化を含めて、分析モデルの再検討が必要であると考える。 ただし、こうした課題は望蜀の観であり、岸野氏の意欲的な研究の価値を損ねるものではない。 ワーク・ライフ・ファシリテーションとLMXという興味深く、実践的にも重要な概念を取り上げて実証研究を行う、岸野氏の今後の研究の進展に期待したい。

(文責:開本浩矢委員)


[受賞者名]
田中 秀樹 氏(京都学園大学)

  [受賞報告題目]
知覚された人的資源管理施策・方針が技術者の定着意欲に及ぼす影響に関する研究

[審査報告]

企業にとって、技術開発に有能な人材を保持し、組織の開発能力を維持向上させることは重要であり、それに貢献する人的資源管理施策とその効果については、近年関心が高まってきている。 特に、人材のリテンションや定着促進、モティベーションの向上等を進めるものに関心が持たれている。本論文は、今日のリテンション、定着意思、コミットメント、モティベーション。 ワーク・エンゲージメント,タレント・マネジメントなどの人的資源管理論や組織行動論の議論の成果を踏まえつつ、人事施策に対する認知の効果を明らかにしようとする意欲的なものである。 特に、知覚された人的資源管理施策(PHRM)の概念枠組みを使いながら、人事施策の認知が、情緒的なコミットメントやワーク・エンゲージメントを媒介にしながら、 定着に対して与える効果について,人的資源管理論と組織行動論の理論成果を踏まえた独自の概念枠組の構築を行い、技術者に対して行った質問票調査の実施と、 その手堅い分析を踏まえながら、一定の効果を明らかにしている。比較的未開拓のこの分野での貢献は大きい。 先行理論研究、そして概念枠組みの検討と独自な構築、手続きに沿った調査の実施とデータの分析、批判検討、そして媒介効果について明らかにしつつ、 人事施策が定着に与える効果について明らかにしている点は、若手研究者としての範になる研究と思われる。

その成果も興味深い。採用活動の熱心さと人材育成施策の推進の認知が組織に対する情緒的コミットメントとワーク・エンゲージメントの高まりに影響し,定着に結びついてとの分析は, 技術者に対する人的資源管理のあり方や働き方改革の方向性を示唆している面があると思われる。 他方で、タイトルで人事施策の認知効果と言った為の限界も感じられる。 人事評価の精緻化は効果が弱かった点は、認知やキャリアのあり方の文化比較の必要性も感じられ、日本の技術者の専門性意識は、欧米に比べ低いために、 精緻化の効果が弱いのかもしれない。また、技術者人材は、無闇に長くいれば良いものではなく、一定の賞味期限があるものと考えるとそもそも、どの程度の期間定着すれば、 企業として一定の効果があるのかも考えてみる必要がある。ここに、日本企業の文化特性があるかもしれない。その戦略的施策展開について再検討してみる必要があるだろう。

だが、本論文は、日本企業の技術者人材の定着政策のあり方と効果について,新たな視点を切り開いた意欲的な研究であり、 今後の益々の発展が期待できる。今後は欧米や中国との比較検討を通じて、日本企業の人事政策のあり方を示す端緒を切り開いた力作と評価できる。

(文責:若林直樹委員長)

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