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2020年全国大会 7月18日 報告要約

人的資源管理論批判に関する一考察 Fleetwood and Hesketh(2010)を中心に

同志社大学大学院 社会学研究科産業関係学専攻 博士課程(後期課程) 竹田次郎

Fleetwood and Hesketh(2010)は、HRM研究のありようについて根本的な 疑義を呈した刺激的な書である。 この主張のベースに批判的実在論がある。 これは科学と世界との関係に関し根源的な問いを投げかける科学哲学であるが、人事実務に照らしても 説得力のある存在論・認識論が随所に見られる。 かつ、HRM研究の方法に対し示唆するところ大であり、これを題材に、更なる問題提起を試みる。

人事管理の整合化について ―人事担当者の実践から―

神戸大学経営学研究科博士課程後期課程 穴田貴大

システムとしての動的側面を捉えた時,人事管理は関係者間の間主観的な利害調整の結果,自明性を帯び機能する(=整合化)と考えられる。 本稿は,人事管理を策定し,整合化のプロセスに関わると考えられる人事担当者の実践に着目し,聞き取り調査を行った。 結果,人事管理による組織内部への作用や,組織内部からの人事管理への影響,人事管理と従業員の相互作用によって,人事管理が整合化されていることが明らかになった。

働き方に関する施策の知覚が従業員の心理に与える影響:トラックドライバーのアイデンティティ志向性に着目して

名古屋経済大学 大曽暢烈
中京大学 櫻井雅充

本報告では,トラックドライバーを対象として,働き方に関する施策の知覚が情緒的コミットメントに及ぼす影響について,アイデンティティ志向性による調整効果の観点から検討した。 分析結果から,トラックドライバーの関係志向性が高い場合に,積極的な教育訓練および評価・昇進の適切性の2つの HRM 施策が情緒的コミットメントを高めることが確認された。

長時間労働が仕事満足度に与える影響に関するパネル分析

大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程 藤井英彦

労働時間と仕事満足度との関係は労務管理の面で不可避なテーマである。 本稿では21才から48歳の正社員の 8 年間のパネルデータを用いて労働時間と仕事満足度・生活満足度との関係について分析を行った。 全般的に労働時間と仕事満足度は負の関係を示した。大卒者、非職位者、仕事を面白いと感じている従業員は、 労働時間と仕事満足度は U 字の非線形関係を、一方、労働時間と生活満足度は逆 U字の関係を示す結果が得られた。

営業職における労働時間と業績に関する実証分析

横浜市立大学 小泉大輔
横浜市立大学 黒木 淳

本稿では営業職における労働時間と業績および人事評価との間にどのような関係があるのかを明らかにすべく,日系製造販売会社の人事データを通じ実証的に検証した。 仕事の成果を人事評価と営業成績とに分類した上で精密機器の製造販売会社における営業職の業績と人事データを分析した結果, 営業職の労働生産性については労働時間の長さは人事考課に正の影響を与えている一方,営業成績には影響を与えていない結果が示された。

ソフトウェア開発のプロジェクト特性と職務満足の関係 ―課題解決型,価値創造型の視点から―

立命館大学 古田克利

本稿の目的は,ソフトウェア開発のプロジェクト特性を課題解決型,価値創造型の視点にもとづき分類し,職務満足との関係を明らかにすることである。 インターネット調査で収集したデータを対象に分析した結果,プロジェクトタイプとして 「課題解決型(要件明確)」「課題解決型(要件不明)」「価値創造型」「目的不明型」の 4 つが抽出された。 また,職務満足と課題解決型(要件不明)および目的不明型の間に負の関連が見られた。

被評価者への人事評価のフィードバックに関する理論的研究

神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期 田村祐介

人事評価におけるフィードバックに関する研究のレビューを行った。その結果,人事評価における既存のフィードバックは与え方に関する議論が中心的であることを指摘する。 しかし組織においてフィードバックは様々な所で発生しており,それらのフィードバックが人事評価におけるフィードバックに補完的な役割を果たす。 そのために人事評価以外で発生しているフィードバックを検討することが重要であることが示唆された。

組織が個を活かせない現象とその構造

専修大学 馬塲杉夫

現在、様々な局面で個を活かすことが期待されている。 そのため、これまでいくつかの研究で、個を活かす手法が提唱され、ある程度、実績をあげている。 しかしながら、そのような手法を用いても個が活かせない現象がみられる。 本報告では、そういった現象についてアンケートデータを用いて指摘した。加えて、解決に向けて、問題領域の構造を明らかにした。

働き方に関する人事施策と従業員の受容 ―労働時間と勤務形態に着目して―

名古屋市立大学 余合 淳

本研究では,働き方にまつわる人事施策が労働時間や勤務形態の観点から従業員にどう受け止められるかについて,既存研究を踏まえ状況要因を加味しながら探索的に検討した。 人事制度を3つの施策群に集約し,公正感との関係性について正社員への Web 上での質問紙調査の結果を用いて検証した。 長時間労働の是正という方向性は従業員にとって受け入れやすいが,個人属性や働き方によってその効果は異なることが明らかになった。

人的資源管理研究におけるタレントマネジメントの位置づけ計量書誌学的分析による検討

流通科学大学 商学部 柿沼 英樹

人的資源管理を主要テーマとする海外学術誌 4 誌に 2000 年以降に掲載された 4,055論文の書誌情報を定量的に分析して、 人的資源管理研究のなかでタレントマネジメントがどのように位置づけられるのかを検討した。 著者キーワードや引用・被引用関係にもとづくと、タレントマネジメントは、国際人的資源管理よりもむしろ、 戦略的人的資源管理の潮流のなかに位置づけるのが望ましいと考えられることが明らかとなった。

経営統合における人事部門の役割百貨店2社の事例研究

一橋大学大学院 経営管理研究科 博士後期課程 三浦 友里恵

合併・買収の主要な人事課題は、買収側が自社の人事制度を被買収側に移転することであるが、被買収側従業員の抵抗を生じやすく実現が難しい。 本稿は日本の百貨店の経営統合を事例に、買収側人事部門が戦略的な役割を一貫して担う一方で、 従業員や管理、変革の役割は被買収側人事部門と連携・分担して担い、統合段階に応じてその分担も変化させることで人事部門の複数の役割を果たし、課題を克服する可能性があることを示す。

ドイツ・スイス企業におけるダイバーシティ・マネジメント(1)ダイバーシティ推進における人事管理の課題

法政大学 武石恵美子

異動や人材育成に人事部門が強く関わるという特徴をもつ日本企業の人事管理が、ダイバーシティ経営と不整合を起こしていると指摘されている。 日本企業と比べて人事の決定権を職場の管理職や従業員に委ねる傾向が強いドイツ、スイスの企業のインタビュー調査を実施し、 異動や人材育成等の仕組みの現状、個人のニーズと組織の人事戦略の調整等に関して実態把握を行い、ダイバーシティ推進の観点から日本への示唆を得た。

ドイツ・スイス企業におけるダイバーシティ・マネジメント(2)多様な部下に対する管理職のマネジメント行動

法政大学 坂爪洋美
多様な部下を持つ管理職に求められるマネジメント行動の明確化を目的として、ドイツもしくはスイスに本籍を置くグローバル企業に勤める課長クラス 12 名を対象にインタビュー調査を実施した。 その結果、管理職は深層的ダイバーシティにも注目していること、多様な部下に個別に対応する「分化」と同時に、 部門目標だけでなく管理職自身に対する理解を深める「統合」を意識したコミュニケーションを行っていることが確認された。

雇用区分制度は正社員の定着に影響を与えるか −大手外食チェーン 5 年間の観察から-

大東文化大学経営学部 國府俊一郎

近年ジョブ型正社員制度の法制化が議論となっており,ワークライフバランスを推進する「勤務地限定正社員」の存在が注目されている。 本稿では外食産業における 5 年にわたる調査から,勤務地限定の雇用区分を設けた場合,定着率が向上することを示す。 それと同時に本稿は,勤務地限定正社員制度にはキャリアの制限という課題があり,また,自由な雇用区分の転換を認める人事制度は,制度運用上の課題も存在することを指摘する。

限定正社員に関する既存研究レビュー −限定正社員の賃金と満足度を中心に−

一橋大学大学院経営管理研究科 平本 奈央子

本稿では、日本における限定正社員に関する既存研究のレビューを通じて、賃金と満足度を中心にこれまでの研究の知見を整理した。 雇用形態の一つとしての企業の限定正社員区分およびその制度、限定正社員として就業する労働者に焦点を当てた実証研究であり、 かつ統計的検定による分析を行った日本国内の定量的研究 15 論文に限定して発見事実を限定種類別に検討し、その上で今後限定正社員研究が取り組むべき課題を提示する。

地方大学にみる人材育成の変化と意義 ~地域系学部の設置と役割について~

長野県立大学 宮下 清

地方創生が求められる近年、地域を担う人材育成のために地域系学部の設置がみられる。 社会変化に対応した学部新設では私立大学が先行してきたが、地方国公立大学による地域系学部の迅速な設置は注目される。 地域系学部はどのような人材育成を目指し、教育を行うのか。 これまで設置された地域系学部を概観しその特徴や方向性を探り、代表的地域系学部から地域や社会に貢献する大学の人材育成のあり方を考察したい。

短大生の進路選択自己効力感がキャリア成熟に与える影響

大手前大学現代社会学部 北村雅昭

短大生の進路選択自己効力感につき、尺度を作成し探索的因子分析を行った結果、適職選択、就職準備、困難克服という 3 因子が抽出された。 これをもとにキャリア成熟の下位因子である計画性、関心性、自律性を従属変数とする階層的重回帰分析を行った結果、 適職選択は計画性に、就職準備は関心性に、困難克服は自律性と関心性に正の影響を持ち、困難克服は就職準備の低時に関心性の低下を抑制する効果があることが分かった。

日産=ルノー アライアンスと雇用・労使関係 −所有形態の変化と日本的雇用制度−

慶應義塾大学商学部 八代 充史

日本的雇用制度を規程する要因としては様々な点が指摘されてきた。 しかしこれまで少なくとも人的資源管理論で研究が十分ではない点は、企業の所有形態の変化が雇用制度に与える影響である。 本報告は 1999 年のルノーと日産自動車のアライアンスを取り上げ、ルノーが日産株式の 3 分の 1 を取得したことが日産の雇用や労使関係に与えた影響を当事者の証言によって検討し、 所有制度と日本的雇用制度に対する含意を述べる。

養成工の技能習得と労働組合活動の実態 三菱電機神戸製作所養成工に対するライフヒストリー調査から

東洋大学 久米功一
神戸大学 山岡順太郎

本稿では、三菱電機神戸製作所養成工出身者9名のライフヒストリー調査を通して、養成工がなぜ高い技能を習得・伝承できたのか、 労働組合活動に積極的に参画したのかについて考察した。その結果、養成学校には、養成工を技能形成に向かわせる独自の仕掛けがあったことや、 養成工と労働組合との関わり方は、実に多様であり、養成工自身の抱える矛盾の解決を求めて、労働組合活動にしぜんと関わっていった姿がうかがえた。

1850 年代におけるアメリカ鉄道会社の労働環境と課題 ―American Railroad Journal の分析を中心に―

独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 田中 あや

本研究では、1850 年代におけるアメリカ鉄道会社の労働環境と課題について分析した。 第 2 章では、アメリカ鉄道会社の労務管理史の先行研究について取り上げた。 第 3 章では、1850年代におけるアメリカ鉄道会社の労働環境の特徴について分析した。 第 4 章では1850年代におけるアメリカ鉄道会社の労働環境の課題について検証した。 鉄道会社によって労働環境を改善していたことが明らかになった。

トヨタ中国工場における現場主義的人材育成

同志社大学 陳燕双

トヨタの中国工場を事例に,OJT による人材育成の実態を明らかにすることが本報告の目的である。 OJT による人材育成を通じて,トヨタの組織文化(「現地現物」,「論理的検証の科学的アプローチ」,「問題がないことは問題」,「人を責めない,仕組みを責める」 「真因追究」などの思考・行動様式)を現地成員に浸透させ,「自ら考えて動く」人材が育まれていることを明らかにする。

ベトナム日系中小企業における仕事環境とコミットメントの関係 ―製造業 2 社の事例から日本企業との比較を通して―

新潟経営大学 塗茂克也

本稿は,ベトナム・ハノイの日系中小企業 2 社の事例から,現地従業員の仕事状況に関連した様々な要因に関する認知とコミットメントの関係を明らかにしたものである。 生活サポート・福利厚生の充実および十分なキャリア支援は,愛着要素組織コミットメントを高めるが,同僚と公平に扱うことには逆の影響がみられた。 企業には,中・長期的な視点で人材を扱い,しっかり成果を評価するといった姿勢が求められるであろう。

HUAWEI(華為) 176ヶ国グローバル展開戦略を支える人と組織のマネジメント

立教大学大学院ビジネスデザイン研究科(特任)教授 中川有紀子

中国深圳本社にある非上場民間企業華為は 176ヶ国で展開し、5G 通信基地関連国際特許では世界トップの座につく。 任正非 創業者兼 CEOの「情報通信技術企業を支える『最大の財産』は従業員である。 『すべてを失ったとしても、『人』を失ってはいけない。人々の素養、スキル、自信は非常に重要である」という人的資本最優先哲学がある。 それを具現化する人事システムを10年ごとの歴史的経緯から分析する。
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