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2020年全国大会 7月19日 報告要約

独企業の人的資源管理 ―世界金融危機後における変化―

東北大学 石塚史樹

本研究では、聞き取り調査の結果をもとに、独企業の人的資源管理の変容を論じる。 この際、社員格付けのありかたと、報酬額の決定に関する「成果主義」の状況を焦点として、人的資源管理を構成する諸要素の制度的補完性を意識しつつ、議論を展開する。 結論として、独企業の人的資源管理の支配的な傾向が、世界金融危機以降、「成果主義」とグルーバル・スタンダードの放棄を含み、多様化を伴い変化していることが示される。

価値創造メカニズムと雇用システムの相補性 ―経営組織の類型化の試み―

山口大学 内田恭彦

長期雇用制度と内部労働市場を活用する日本型経営についての議論を発展させるために、企業の価値創出方法には戦略合理と資産合理の2つがあり、 それらと雇用システムには相補性が存在し異なる雇用システムが用いられること、雇用システム内の諸制度もお互いに補完性を有するというモデル案を提示する。 その上で自動車部品メーカーのケース研究を行い、モデルを検討する。価値創出方法と雇用システムに相補性が確認された。

Marsden による「雇用システムの理論」の検討-職能ルールに着目して

神戸大学大学院経営学研究科 丸子敬仁

本稿は Marsden(1999)による雇用システムの理論内の職能ルールに着目し,その制約ロジックの妥当性を論理的に検討した。 結論としては「職務の境界と仕事の配分」,「普段と異なる業務と業務の可変性」という機会主義的行動に関わる制約のロジックについては,大きな問題があることがわかった。 また検討内容より,職能ルールは,「長期雇用を必須とする,能力を評価する昇進昇格構造」を中枢機能としていることがわかった。

国内人口移動からみえるキャリアと世代効果

大正大学 塚崎裕子

本稿では、国内人口移動とキャリアや世代効果との関係を考察するため、「第 8 回人口移動調査」のデータを分析した。 分析の結果、1男性は職業や従業上の地位によって、初職時の移動、転勤、転居を伴う転職に異なる傾向がみられたが、女性にはそうした傾向はほとんどないこと、 2国内人口移動や結婚は世代効果の影響を受けていること等が明らかになった。

衛星写真を用いた労働力賦存状況推定タイおよびベトナムにおける事例をもとに

長崎大学経済学部 宇都宮 譲

本研究は、衛星画像から取得する色情報を用いて、労働力多寡に応じて得られるクラスタを推定できるかどうか検証することを目的とする。 クラスタリングには k-means 方を、推定にはベイズ推論にもとづく多項ロジスティック回帰モデルを適用した。 結果、推定は可能と考えられること、および推定には緑色成分が重要であることが解明された。 また、結果から労働力移動や産業発展径路に関する示唆を得た。

PC を使用した情報処理スキルと賃金1情報処理スキルや GRIT 変数を用いた賃金関数による分析

高崎経済大学 経済学部 小林徹
慶應義塾大学 商学部 山本勲

技術進歩に伴いデータ活用の利便性が増し、データ処理・分析スキルを要する人材が社会的に求められてきている。 既存研究では基本的な PC スキルが高まると、労働者の賃金も高くなることが指摘されているが、特にデータ処理・分析スキルのリターンに注目した分析例はない。 そこで本研究では、データ処理・統計分析スキルが詳細に把握可能なデータをもとに、当該スキルと賃金との関連を分析する。

スキル・ミスマッチと仕事満足の関係 ―残された課題の検討―

摂南大学経済学部 平尾智隆

本研究では,『日本労務学会誌』第 20 巻第 1 号に掲載された同主題の論文において残された課題を検討する。 スキル過少とスキル過剰というスキル・ミスマッチについて,先の論文ではスキル過少の程度が仕事満足に与える影響を十分に分析することができなかった。 そこで,追加調査を実施し,スキル過少の程度を捉えることを試みた。分析の結果,スキル過少の程度が小さい場合,仕事満足に正の効果があることが明らかとなった。

内部労働市場における労働者の先験的選好の影響 ―企業内パネルデータによる分析―

大阪大学全学教育推進機構 柿澤寿信

本稿では、労働者個人が持つリスク選好および時間選好が、企業内の処遇決定に与える影響を実証的に検討する。 ある企業の詳細な人事データと従業員意識調査の結果を利用して生存時間分析を行った結果、比較的リスクを取る傾向のある個人や、 将来利得を重視する傾向のある個人ほど、管理職への昇進確率が高まっている可能性が示唆された。 これは海外のマクロデータによる分析結果と整合する結果である。

介護との両立に伴う労働生産性損失の測定とその影響要因 健康経営研究における Presenteesm 尺度を応用して

山梨大学 西久保浩二

少子高齢化の進展なかで要介護者の増加が続いており、老親介護に直面する労働者が拡大している。 当初は介護離職が注目されたが、実態的には離職せず勤務しながら仕事との両立する者が圧倒的に多い。 ここで、懸念されるのが、両立による業務上のパフォーマンスの低下、すなわち労働生産性損失の発生である。 本研究では、この損失の実態を健康経営で蓄積されてきた知見を応用して測定し、その損失をもたらす要因を解明する。

職場環境が在宅勤務利用に対する上司の態度に与える影響

大阪商業大学 大平剛士
関西大学 細見正樹
兵庫県立大学 加納郁也

本研究では、職場環境(仕事の相互依存性、ダイバーシティ、テレコミュニケーション)が在宅勤務利用に対する上司の態度に与える影響を検証した。 検証の結果、仕事の相互依存性は在宅勤務利用に対する上司の態度に対して負の影響を、また仕事の相互依存性と在宅勤務利用に対する上司の態度の関係に対して、 組織の所属年数ダイバーシティは負の、職場のテレコミュニケーション利用度は正の調整効果を与えていた。

在宅勤務制度の利用促進に関連する職務特性

関西大学 細見正樹
大阪商業大学 大平剛士
同志社大学 川口章
兵庫県立大学 加納郁也

本研究は,在宅勤務制度の利用者が出現した際の,従業員の心理に影響を与える要因を研究した。 質問紙調査を分析した結果,職務自由度および仕事の複雑性が高い従業員は,利用許容度が高かった。 また,相互依存性が高いと,職務自由度と利用許容度の関係が強まった。 また,相互依存性が低いときは仕事の複雑性は利用許容度に有意な影響を与えなかったが,相互依存性が高いときは仕事の複雑性は利用許容度を高めた。

組合活動活性化への仮説探索「領域A」における個別的労使関係での分権的組合活動

國學院大學大学院経済学研究科博士後期課程 西尾力

労組の組織率が低下し続けている。17.0%から16.7%に最低を更新した。 誰もが格差拡大を認め、雇用の非正規化が社会的大問題になっている。 しかし、傾向として労働者は労働組合を作ろうとも入ろうともしない。 それは、労働組合の活動領域が主に集団的労使関係での集権的組合活動にあり、労働者一人ひとりの顔の見える活動になっていないからである。 個別的労使関係での分権的組合活動へと舵を切る必要があるのではないか。

集団から個人に移る労働者の“Voice” ―5カ国比較調査にみる日本の現状―

リクルートワークス研究所 中村天江

働き方の多様化と労働市場の流動化により、労働者の“ Voice”をあげる仕組みが集団単位の労使交渉から個人単位の交渉に拡大している。 しかし、日本・アメリカ・フランス・デンマーク・中国で行った調査 により、日本には個人単位で労働条件を交渉する風土がないことが判明した。 分析の結果、どの国でも発言により希望が叶いやすくなり、また、日本では“Exit”オプションの有無が個人の発言を促すことが明らかになった。

技能実習制度の性格とその変化の方向 2つの二重構造との関連を手がかりに

法政大学 山口塁

本報告では技能実習制度の性格を,日本の産業社会において問題化されてきた 2つの二重構造のうち下位層に関連づけて定位をおこなう。 ここでいう 2つの二重構造とは,おもに高度成長期において問題化された近代-前近代部門の二重構造と,近年顕在化し,その緩和が目指される正社員-非正社員の二重構造である。 そのうえで近年の外国人労働者政策の改編に伴い,技能実習制度の性格がどのように変化するのかにも言及する。

対人援助業務人員の感情労働と心理的資本が組織定着と職務成果に及ぼす影響

兵庫県立大学 高階 利徳
大阪大学 開本 浩矢

対人援助業務人員が実践する「感情労働」と、彼らのポジティブな内的資源である「心理的資本」が、組織定着・創造性等に与える影響を定量的に分析した。 その結果、感情労働の相手感情の察知・共感と感情の不協和が、そして心理的資本のレジリエンスと楽観性が、離職意思等に有意に影響していた。 また心理的資本が果たす、感情労働と組織定着・創造性等との間の関係への調整効果も検討したが、それを示唆する結果が得られた。

健康経営研究の展開と人材活用に向けての課題

広島国際大学 橋村政哉

本報告は、近年において働く人々の健康が強調される意味を探り、企業の健康管理の現状と課題を把握することを目的とする。 そこでまず、「働き方改革」、「健康経営」の展開を取り上げた。次に、より直接的である健康経営研究に着目した。 以上を踏まえて、企業が人材活用に向けて従業員の健康管理を効果的に行ってゆくための課題として、産業医の現状と課題を認識すること、コラボヘルスへの期待、多様な人材の意識が挙げられる。

リーダーシップの使用理論はどのように形成・改訂されるのか? X社に見るリーダーの使用理論の形成・改訂パターンと要因

奈良佐保短期大学 戸田 信聡

本研究では,リーダー個人のリーダーシップの使用理論(theory-in-use)形成・改訂のパターン及び職務要因解明に焦点を当て、定性的研究を行った。 専門講師によってリーダーシップの使用理論を実際に形成している企業をリサーチ・サイトとし、使用理論形成・改訂がどのようなパターン及び職務要因で行われているか、 リーダーとそのフォロワーへ調査をすることで解明を進めた。

インクルージョン風土は知識共有行動を高めるのか ―心理的安全の媒介効果に注目して―

流通経済大学 佐藤佑樹

近年では、組織におけるメンバーの多様性の増大に伴い、職場の多様性に対する支援的な風土の醸成の必要性が指摘されている。 そこで、本研究ではインクルージョン風土(CI)に注目し、CIの知識共有行動への影響メカニズムを明らかにするために、心理的安全の枠組みを援用して仮説の提示を試みた。 分析の結果、本研究の仮説は支持され、CIは心理的安全を介して個人の知識共有行動に肯定的な影響を及ぼすことが確認された。

集団的創造性を生み出すチーム・コミュニケーション・スキル尺度開発の試み

法政大学 キャリアデザイン学部 梅崎 修
立教大学 経営学部 藤澤広美
立教大学 大学教育開発・支援センター 廣川佳子

本報告では、企業競争力を高める要因として集団的創造性を促す集団特性と成員のチーム・コミュニケーション・スキル尺度の開発を試みた。 Study1 では、サイボウズ社の従業員にグループインタビューを実施し、尺度開発に必要な概念化を行い、キーワードを抽出した。 Study2では、抽出したキーワードから尺度項目のパイロット版を作成し、同社従業員に質問紙調査を行い、尺度の信頼性および構成概念妥当性を確認した。

若手社員の「とりあえず正社員」意識と職業キャリア意識の関連

千葉経済大学 中嶌 剛

本研究は、8 割近くの就活生が抱くとされる「何が何でも正社員として就職したい(「とりあえず正社員」)」という進路・目的意識の曖昧さが入社後のキャリア形成に及ぼす影響を縦断的視点から検討した。 労働需給両面からの仮説検証を行った結果、進路選択の曖昧さは就職活動を通して人間的成長に繋げられるだけでなく、 入社後の人事評価・処遇のあり方やキャリア開発支援の充実によって涵養可能な要因であることを確認した。

上司による部下への支援行動と部下の職務満足についての考察 上司が実行した支援行動と部下が認知した支援行動に着目して

大阪大学 岡嶋裕子  松繁寿和  柿澤寿信

本研究では上司による部下への支援行動と部下の職務満足の関係について検証する。 上司が実行した実際の支援行動と,部下が知覚する支援行動を識別し,パネルデータを用いて固定効果モデルと操作変数法にて推定する。 分析の結果,“上司が実行した支援行動”と“部下が認知した支援行動”の相関は低いこと,“上司が実行した支援行動”と“部下が認知した支援行動”が部下の職務満足に与える影響は異なることが確認された。

働き方改革の推進に伴う育成における上司と部下の関わり方の変容に関する研究

九州大学 岸野早希
大阪商業大学 平野光俊

「働き方改革」関連法の施行を受け、様々な労働問題の改善が期待される一方で、労働時間の「見える化」が強く打ち出されることにより、 従来の曖昧な時間管理のもとで行わる育成の仕方では対応ができなくなるといった人材育成面での不安が指摘されている。 そこで本研究では、働き方改革によって管理職の役割や部下の育成にどのような変化が見られるのかを検討する。

部下育成のためのリフレクション支援マネジャーによる部下育成行動の質的分析

北海道大学大学院経済学研究院博士後期課程 永田正樹

これまでの研究では学習におけるリフレクションの重要性が強調されてきたが、部下の成長を支援するために、どのようにリフレクションを促進するかについての実証研究は少ない。 本稿の目的は、A 社マネジャーの部下育成に関するインタビューデータを質的に分析することにより、部下のリフレクションを支援する指導行動を明らかにすることである。 本研究の貢献は、適切な部下育成行動のプロセスを明らかにした点である。

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