2025年全国大会 7月26日 報告要約
経営プラクティスから見た日本企業の競争力回復に関する考察
~製造業A社の事例に基づいた生産性の現状と打開策の提言~
株式会社プロテリアル・中島 豊要約:経営プラクティス(実務)では、日本企業の競争力の衰えに危機感が強い。本稿では、米国企業の「情報異化」と日本企業の「情報同化」のアーキテクチャを比較し、「情報同化」によるコーディネーションに基づく業務処理体制が生産性の低下を起こしていると推定した。その上で、製造業A社で実施された業務量調査から大量の低生産性業務が存在することを確認した。この打開策として、日本企業が情報異化のアーキテクチャに向けて変革すべきことを提言した。
日本企業による外国人雇用行動の実態と変化
外国人雇用政策の過渡期に着目して
慶應義塾大学・園田薫要約:外国人の雇用に関する既存研究では、企業の外国人雇用行動の変化を分析できていなかった。そこで企業パネルデータを用い、外国人雇用政策の過渡期となる2010年以降の外国人雇用行動を時系列的に分析した。企業属性やダイバーシティ推進変数を統制したとき、外国人雇用数は2014年以降有意に増加するも、外国人雇用企業の有意な増加は2020年以降確認された。同様に、外国人管理職のいる企業は2014年以降有意に増加するも、管理職数の有意な増加は2017年以降に確認された。
誰が企業別組合の専従役員になるのか
1組織としての選出プロセスと労使関係
同志社大学 三吉 勉要約:企業別組合の専従役員に着目し、その候補として選ばれる人の特徴や勧誘過程を明らかにした。専従役員経験者の聞き取り調査の結果、第一に対象者の特徴は会社と近い要素もあるが、組合ならではの要素もあること、第二に候補者への勧誘過程には2 種類があることを明らかにした。この選出過程の変化から企業における人材配置の権限や労働者のキャリア意識の変化を読み解くことができることから、この慣行の解明は現代日本の労使関係を解明する課題の一つと言える。
非正社員の基幹労働力化受容
-職場での他者との関係に注目して-
岡山商科大学経営学部・林部 由香要約:職場での他者との関係性を通じて、基幹化非正社員が自らの働き方をどのように意味づけ、受容しているのかを明らかにする。X社のスペシャリストを対象にRTAを用いて分析した結果、「パート以上である私」と「ただのパートである私」という2つの意味づけが見出された。これらは択一的なものはなく同一人物の中で共存し、この2つを極として、状況に応じて揺れ動く場合もある。その分析を通し、動きのトリガーとなるのが「承認」であることを明らかにした。
ワーク・ライフ・バランス満足度に対する 労使コミュニケーションの効果
同志社大学 田中 秀樹岩手大学 渡部 あさみ
要約:本報告の目的は,オーストラリア,ニュージーランドのホワイトカラー労働者との比較を通じて,ホワイトカラー労働者のWork-Life Balance(WLB)満足度を向上させる労使の在り方を検討することである。分析の結果,3か国において労使コミュニケーションが確保されているとWLB満足度は高かった。加えて,労使コミュニケーションが有ることで労働組合の交渉力があると認識されること,労働組合の交渉力認識によってWLB満足度が高くなることが示唆された。
リサーチ・アドミニストレーター(URA)のキャリア志向と職務満足
常葉大学・鈴木 章浩要約:本研究では、大学等に勤務するリサーチ・アドミニストレーター(URA)を対象に、個人のキャリア志向と、職場の人事制度 ・環境への満足度が、就業継続意欲や仕事のやりがいにどのような影響を及ぼすかを検討した。全国のURA に対するアンケート調査の分析により、組織人志向と専門職志向の違いが、昇進や能力開発といった制度的要因に対する反応に有意な差を示すことが明らかになった。URA 一人ひとりのキャリア観に応じた支援とマネジメントの工夫が、今後一層求められることが示唆された。
高学歴URAの業務と処遇
教育過剰・過少の観点からの分析
早稲田大学政治経済学術院・村上由紀子要約:近年急速に増加している大学リサーチ・アドミニストレーター(以下、URA)は、採用において博士号を求められることが多く、高学歴であるものの任期付き雇用が多い。本研究では、独自のアンケート調査で収集したデータを用いて、URAに博士向き業務があるか否かを分析し、かつ、任期付き雇用は、教育過剰もしくは教育過少の場合に起きているかどうかを検証した。分析の結果、URAには博士号取得者向きの業務があり、教育過少の場合に任期付き雇用が多いことが明らかになった。
新卒社員のリアリティ・ショックの再評価
期待と現実の関係性の検討
大妻女子大学・高崎美佐要約:本研究は、大卒新入社員を対象に入社前と入社後に実施した縦断調査データによる入社前の予想と現実の差と入社後のみの調査で得た入社前後のギャップ認知との関連を検討した。分析の結果、実際にはギャップがないにもかかわらず入社後をネガティブに評価する群の多くが、入社前から成長を期待していなかったことも明らかとなった。この結果は、入社前に期待を持たない群への対応の必要性や入社前と入社後のギャップに関する知見のアップデートの必要性の示唆と考えられる。
大学生の時間的展望と就職活動の積極性との関係
四日市大学・小西 琴絵要約:本論では時間的展望が就職活動への積極的関与に給える影響を検討した。時間的展望とは、過去・現在・未来に対する認知的傾向であり行動様式に影響を与えるとされる。そこで,大学3年生440名を対象に時間的展望を測定し、合同企業説明会、個別企業説明会、エントリーシート提出の経験との関連を分析した。結果、過去否定志向は積極的関与を促進し、未来志向は一部の行動を抑制する傾向が示された。
高年齢従業員の就業選択における利他性・向社会性
「すりかえ合意」行動の発動と人材マネジメント
敬愛大学 高木 朋代要約:高年齢者の雇用促進はあらゆる国々で重要課題となっている。しかし、現実は厳しく全員が就業できるわけではない。限られた雇用機会の下で、自分の真意をすりかえて引退や転職といった二次選択を受け入れる「すりかえ合意」行動が当事者間で執られることが従前の研究で見出された。本報告では、社会行動実験のデータを用いて「すりかえ合意」の発動要因を考察する。結果として、長期的関係を軸に協働の習熟を促す人事管理と、人々が持つ利他性・向社会性が主要因となっていることが示される。
勤続年数が努力水準に給える影響から キャリア・コンサーンを探る
金沢学院大学・奥井めぐみ要約:キャリア・コンサーンの理論では、勤続年数が長くなるにつれ、将来のキャリアのために努力する必要がなくなり、努力水準は下がる。本研究では、2022年に行ったアンケート調査を利用して勤続年数が努力水準に給える影響を分析した。結果より、男女とも勤続年数が長くなると努力水準が下がること、「昇進するために必要と考えるため」の努力理由選択確率は、男性で勤続年数に伴い減少することが示された。勤続年数が長い男性社員の努力を維持するインセンティブが課題となる。
企業主導型異動における知覚された組織的支援の形成
―公正性の役割に着目して―
株式会社インディードリクルートパートナーズ・髙見佑奈要約:本研究は、企業主導型異動が知覚された組織的支援(POS)に給える影響を明らかにすることを目的とする。従業員の価値観や就労に関する選択肢が多様化し、必ずしも希望に沿わない異動が生じる状況において、組織と個人の関係性をいかに維持・強化するかは重要な課題である。本研究では定量分析を通じて、企業主導型異動がPOSに給える影響とその関係における公正性の役割を検証する。
マネジメントに対する従業員の受け止め方のばらつきが仕事充実度に給える影響に関するパネルデータを用いた実証分析
日本福祉大学 経済学部・藤井英彦要約:本報告では、上司のマネジメントに対する職場内での受け止め方のばらつきが、従業員の仕事充実度に給える影響を、パネルデータを用いて分析した。上司のマネジメントを適切と評価する個人ほど仕事充実度は高かったが、同じ職場内でその評価にばらつきが大きい場合、仕事充実度は低下する傾向がみられた。特に「適切な指導」に対する認識の差が大きい職場でその傾向が強く、職場内でのマネジメントに対する共通理解の重要性が示唆された。
ジョブクラフティング研修の実践的課題の検討
釧路公立大学 岸田 泰則 ・ ㈱IHI 大野 瑠衣要約:従来のジョブクラフティング(JC)研修には、研修効果の持続性やミドル・シニア層への適用、上司支援の不足といった課題があった。本稿ではこれらの問題意識に基づきJC研修プログラムを開発・実施し、その効果を検証した。ミドル・シニアのJCにはキャリア後期における自己の再定義や知の継承といった特徴が見られ、その実践には上司の理解・支援だけでなく組織による包括的な支援が不可欠であることが明らかになった。
メンタリングが中堅社員のキャリア・クラフティングに給える影響
東京都立大学大学院 博士後期課程・安部 温代要約:本稿の目的は、職場内の他者からの支援行動とネットワークに焦点を当て、30 代中堅社員のキャリア形成行動に影響を給えうるメカニズムを考察することである。分析の結果、メンタリングおよび職場のソーシャル・キャピタル(SC)はキャリア・クラフティング(CC)と個別に正の関係があり、代替機能を有することが確認された。一方、近年高齢社員にメンター役が期待されているが、年齢属性はCC に有意な影響を給えないことが示された。
正社員における副業経験が本業に活かされる条件
− 動機・内省・情報のシェア –
東洋大学・川上淳之要約:本研究は、「正社員の副業に関する調査」を用いて、副業保有者を対象に副業経験が本業の役に立つ条件を分析した。「スキル」「ネットワーク」「アイデア」の3つの主観的効果と、副業に起因する人事の評価があったかを、副業を持つ動機、仕事の経験のあとに内省を行う習慣、副業の把握している者が持つ効果を、しているかシンプルな回帰分析から検証を行なった。3つの仮説はそれぞれの指標を高める効果がみられること、その効果には世代差があることが明らかになった。
同僚の象徴性障害者偏見が 合理的配慮要望の規範的適切性評価に及ぼす影響
―SRHRM(社会的に責任ある人事管理)の調整効果に着目して―
新潟大学・丸山 峻要約:本研究の目的は、従業員の抱く象徴性障害者偏見が、障害のある同僚による合理的配慮要望に対する規範的適切性評価に給える影響を検討することである。質問票調査の回答データを分析した結果、象徴性障害者偏見が合理的配慮要望の規範的適切性評価に負の影響を給えること、SRHRMが両者の関係を弱める調整効果を持つことが明らかになった。以上の結果から、SRHRMを通じた組織規範の伝達・形成により、合理的配慮提供の阻害などの差別的行動が低減されることが示唆された。
配慮の合理性構築プロセスに関するケーススタディ
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程・忽那佳奈要約:本研究は、組織内で障碍者と仕事上の関わりがあるオブザーバーが、配慮プロセスにおける余波管理の段階において、合理的配慮をマネジメントするプロセスの解明を目的とする。障碍者に対する配慮は継続的な調整を要するが、オブザーバーがどのように配慮交渉後に生じた問題に対応するかは明らかになっていない。 そこで本研究は、採用担当者、現場管理者、障碍者の同僚に対するインタビュー調査から、オブザーバーが余波管理を行い、配慮の合理性を問い直すプロセスを解明する。
育児中の女性管理職のワークライフ バランス維持を可能にする職場環境要因 ~日英比較を通して~
お茶の水女子大学大学院(修了)・ 小竹 茜要約:育児中の女性管理職のWLBに影響を給える職場要因を英国との比較を通じて明らかにするため、 日英両国の育児中女性管理職にインタビューを実施した。結果、日本企業では労働時間を伸ばし、時間 的拘束を強めるビジネス慣行が複数存在することが確認され、あわせて、日本の管理職は業務量や突発 的な時間外労働に対して交渉力が弱い傾向が見られた。こうしたビジネス慣行と交渉力の弱さは、日本的 雇用制度に加え、時間限定なく働ける者が管理職の多数派を占めた結果維持されてきたと考えられる。