2026年全国大会 8月29日 報告要約
看護師のフォロワーシップとチームの成果との関係におけるリーダーシップの調整的役割
立命館大学・西之坊 穂要約:本研究は、看護師長のリーダーシップが、看護師のフォロワーシップと多職種 連携医療チーム(IHT)の有効性の関係を調整するかを検討した。分析の結果、積極的 行動と批判的行動はIHTに有意な正の影響を及ぼした。リーダーシップは、課題行動 がチーム成果、関係行動がチーム結束に正の影響を及ぼした。一方、課題行動は積極 的行動との関係を、関係行動は批判的行動との関係をそれぞれ調整した。
フォロワーシップ行動の先行要因に関する実証研究
同志社大学・井上 猛要約:本研究では,フォロワーシップ行動の先行要因を明らかにするため,労働者1,000名へのアンケート調査を行った。分析の結果,「自己効力感を持つことと,統合型,能動型,受動型のフォロワーシップ行動には正の相関関係があること」「仕事への有意義感と自己効力感を持つことは,能動型 から統合型への発達に正の影響力を有すること」および,「サーバント・リーダーシップはフォロワーシップ発達に正の影響力があり,特に受動型への発達に影響力が大きいこと」が明らかになった。
暗黙のフォロワーシップ理論の上司-部下適合がフォロワーシップ行動と組織適合認知に与える影響
同志社大学社会学研究科博士後期課程・長谷 俊平要約:本研究は、暗黙のフォロワーシップ理論(IFT)の上司-部下間適合度が、部下のフォロワーシップ行動および個人-組織適合認知に与える影響を、応答曲面法により予備的に検討する。部下が認知する上司のIFTと部下自身のIFTの適合を対象とする個人内設計を採用し、プロトタイプ次元およびアンチプロトタイプ次元ごとに適合効果を分析する。IFT適合研究における日本サンプルでの検証は初の試みであり、従順性など文化的文脈により評価が異なりうるIFT次元の適合効果の解明を目指す。本報告では仮説の導出と研究方法を提示し、本格的な縦断的ダイアド調査に向けた論点を議論する。
人的資本の蓄積・分配と生産性
終戦直後の企業・労働者データを用いた分析
山口大学・川村 一真要約:人的資本は価値創造の源泉であり,企業経営におけるその重要性は広く認識されている。しかし、一般に人的資本の測定は困難であることから、企業業績との関係を検証する実証研究は少なく, 課題は残されている。本研究は京浜工業地帯調査と対象企業の有価証券報告書を組み合わせた企業・労働者データを用いる。京浜工業地帯調査の個票から推定された企業の人的資本や人的資源管理システムと生産性の関係を検証した。その結果,概ね仮説と整合的な結果が得られた。
戦後日本の賃金・人事制度に内在する「集団間競争」の機能と公平観
日本の人事制度はなぜ機能してきたのか
−戦後八幡製鉄所賃金に見る「集団」を活かした競争と公平の仕組み−
マッケン・キャリアコンサルタンツ株式会社・竹内 上人要約:戦後日本の高度成長を支えた賃金制度を人事実務家の視点から再検討し、現代の制度設計への示唆を得ることを目的とする。戦後復興期の賃金体系を検証すると、個人別評価に先立ち、工程別といった集団単位への賃金配分が重要な役割を果たしていたことが確認できる。八幡製鉄所生産部門の事例を通じ、メンバーシップ型人事システムの原型というべき集団単位での配分と競争が協働を前提とした労働意欲を形成してきた可能性を示し、今後の人事システムへの展開の可能性を提起する。
企業における転勤運用の実態
企業調査データの二次分析より
和歌山大学・川端 由美子要約:本研究は、コロナ禍以前の転勤運用の実態を把握するため、企業調査のデータを用いて転勤を類型化し、その特徴を明らかにすることを目的とする。転勤はこれまで企業主導で実施され、ルールの明文化がなされないまま、家族帯同を前提として運用されてきた。そのため、近年では無限定な働き方の見直しが議論されている。コロナ禍以前の実態について分析した結果、4つの転勤タイプが抽出された。いずれも従来の転勤運用の要素が維持されており、転勤制度の変容は限定的であった。
人的資源管理施策は何が効くのか
−全体向け施策と個別施策の機能分化−
開志創造大学・浅野 浩美開志創造大学・一守 靖
要約:本研究は、人的資源管理施策が従業員の成果認知にどう関連するのかを、全体向け施策と個別施策の機能分化に着目して検討する。上場企業従業員1097名のデータで構造方程式モデリングを行った結果、個別施策は成果認知に直接的に関連する一方、全体向け施策は人的資本の価値認識を媒介して間接的に関連した。成果認知に結びつくのは主に価値認識であり、独自性認識は一貫した関連を示さなかった。これらの結果は、施策タイプにより成果認知への経路が異なることを示している。
タレントマネジメントの哲学と施策の整合性が組織業績に及ぼす影響
質的比較分析による検討
同志社大学・柿沼 英樹要約:TM哲学と整合的なTM施策の実践が組織成果に影響すると考えられることを踏まえ、それらの組 み合わせがいかなる条件のもとで良好な組織成果と結びつくかを、質的比較分析によって検討した。その結果、(a) 成果の発生と結びつく条件構成は複数存在し、個々の施策は単独では一貫した効果を持たない、(b) TM哲学とTM施策の整合性は単一の対応関係ではなく、多様な組み合わせとして成立する、(c) 成果の発生と未発生は非対称な条件構成によって説明される、ということが示された。
人事施策がスターの形成に及ぼす影響
−NBA を用いた実証分析−
亜細亜大学・HE LIUZEYU要約:本研究では、プロスポーツ組織(NBA)において、チームが選手に施す報酬・機会の付与などの人事施策がスターの形成に与える影響を検討した。具体的には、AMOモデルの枠組みを援用し、その中でも動機づけ要因(報酬水準)及び機会要因(出場時間・先発起用)に着目することで、個人の能力と社会的環境以外にスターの形成に影響する要因を明らかにした。結果からは、機会に関する人事施策はスターの形成に正の影響を及ぼすことが確認された。
業務における生成AI利用を支える人材育成施策と人事制度
宇都宮大学・大嶋 淳俊要約:本報告の目的は、業務における生成 AI 利用を支える人材育成施策と人事制度のあり方を探索的に検討することである。2026年実施の定量調査を用い、20~30代を次世代人材層として、40代以上の層と比較し、生成AI利用の状況と、研修機会、学習支援、上司・組織の支援、人事制度との関係を分析する。さらに、年代による課題認識や支援ニーズの差異を検討し、生成AI時代の人的資源管理への示唆を考察する。
情報技術の進化はミドル管理職の仕事をいかに変えるのか
大阪商業大学・浅井 希和子要約:本稿は,情報技術の進化が日本のミドル管理職の役割に与える影響のメカニズムを理論的に考察する.長年続くミドル管理職の業務過多を背景に,IT による効率化がなぜ負担軽減に直結しないのかというパラドックスを提示する.人工物としての情報処理システムの特性と,組織の意思決定権限の集権度・分権度という視点から先行研究を統合し,技術と組織の相互作用によって多様な役割変化が生じるメカニズムを導出する.
日本の高等教育機関におけるURAマネジメントに関する一考察
同志社大学・岡田 麻紀要約:我が国の高等教育機関は,教員組織,事務職員組織の二重構造で構成されている。近年,研究力向上を目的として,リサーチ・アドミニストレーター(University Research Administrator/以下 URA)の配置が進んでいるが,現場ではURAに適合する人材マネジメントスタイル(Human Resource Management style/以下 HRM スタイル)の検討が十分に行われないまま既存2組織の枠組みが準用されている。本稿では,URAへのインタビュー調査を実施し,URAに適合的なHRMスタイルを考察した。
大学研究者に期待される役割構造
−バイオサイエンス研究者へのインタビューに基づく探索的分析−
大阪経済大学・柿澤 寿信高松大学・松繁 寿和
パーソル高度バイオDX産業人材育成協働研究所・魚津 理映
パーソル高度バイオDX産業人材育成協働研究所・久家 彩乃
要約:本研究は、バイオサイエンス分野の大学や研究所等における研究者への半構造化インタビューを通じて、研究者が担う役割を明らかにすることを目的とする。研究者に求められる役割を「研究の実行」「研究の維持・拡大」「研究組織運営」等の領域に整理した上で、それぞれの内容を分析した。加えて、それら役割の内容や比重にキャリア段階別の違いを見出せるか否かを検討した。この役割構造の整理を通じて、今後の人材育成や研究組織マネジメントを考える新たな視点を提供する。
ワーク・エンゲイジメントスコアの国際比較における回答スタイルの影響
日本とフランスを対象とした係留ビネット調査
大阪大学・澤田 真央要約:日本人のワーク・エンゲイジメントスコアの国際的な低水準について,回答時のバイアスがどの程度寄与しているのかを,日仏の従業員を対象に係留ビネット法を用いた調査分析を行うことで,定量的に検討した。その結果,日本の平均スコアは仏に対し1.27点低く,その差の約3割を回答時のバイアスが説明した。これは主に仏側の上位選択肢を選びやすい傾向によるものであった。一方,約7割の差は補正後も残留し,日本のWE低水準は主として実質的な差を反映することが示唆される。
職場における働き方改革がエンジニアの満足度および仕事パフォーマンスに与える影響
−フィンランドのソフトウェアエンジニアを対象とした実証研究−
京都橘大学・王 嬌京都女子大学・中田 喜文
要約:本研究は、フィンランドのIT関連業務に従事するエンジニア(以下ITエンジニア)を対象に実施したアンケート調査の統計分析により、働き方改革の効果を働く側の視点からワーク・エンゲージメントおよびWell-beingに与える影響を検討した。その結果、働き方改革推進度はワーク・エンゲージメントに有意な正の影響を示した。また、ワーク・エンゲージメントおよびWLB満足度は生活満足度に対して正の影響を示した。
上司・部下のダイアドにおけるワーク・エンゲイジメントの影響プロセス
仕事の資源による媒介の実証を通じたJD-Rモデルのダイアドへの拡張
みずほ総合研究所・市川 茉耶要約:本研究は上司と部下のダイアドに着目し、上司のワーク・エンゲイジメント(砌が部下のWEへ及ぼす影響プロセスを検討した。3時点の縦断調査データを分析した結果、上司北は部下WEと正の関連があり、コミュニケーションの量・質によって強化されることがわかった。また、仕事の資源が両者を部分的に媒介することが確認された。本研究は、上司観から部下WEへの影響プロセスを明らかにするとともに、部下のJD-Rモデルと統合する視点を歴供する。
上司は男性の部下に育児休業を取得させようとしているのか?
−育児・介護休業法改正の効果−
摂南大学・平尾 智隆大阪学院大学・井川 静恵
要約:本研究では,育児・介護休業法の改正を追いながら,2022年に導入された「育児休業の取得意向の確認義務化」が企業における管理職の育児休業に対する意識に与えた効果を検証する。具体的には,ある中小企業で実施されてきた従業員満足度調査と人事マイクロデータを経年で突合したパネルデータを用い,個体固有効果を制御した上で,この課題を追究する。分析の結果,2022年の育児・介護休業法改正以降,管理職の育児休業に対する意識が向上していることが明らかになった。
ワーク・ライフ・バランス施策はなぜ使われないのか
−シグナリングと評価構造−
神戸学院大学・岡本 弥要約:本稿では、全国規模の個票データを用いて、WLB施策の利用と昇進希望との関係をシグナリング の観点から分析した。その結果、部長・役員など上位管理職を志向する労働者ほど、育児休業や短時間勤務制度の利用を控える傾向が確認された。一方、介護関連制度では、同様の傾向は限定的であった。これらの結果は、WLB施策の利用が職場環境や制度整備だけでなく、昇進や人事評価を意識した労働者の行動にも左右される可能性を示唆している。
共働き従業員のリモートワークと孤立感
夫婦時間充足度とジェンダーの効果
関西大学・細見 正樹同志社大学・藤本 哲史
要約:本研究は、リモートワークと夫婦時間充足度(STA)の関係をジェンダーに基づき注目し、孤立感の先行要因を研究した。配偶者が働いている正社員従業員を対象として分析した結果、リモートワーク頻度はSTAに正の効果を与え、STAは孤立感を低下させた。また、女性は職務自由度が高いと、リモートワーク頻度とSTAの関係に調整効果およびSTAを介したリモートワーク頻度と孤立感の関係に調整媒介効果が認められたが、男性は有意な調整効果および調整媒介効果は示されなかった。
精神障害のある従業員の職場定着を支える人事労務管理
−特例子会社の人事担当者インタビューに基づくJD-Rモデル分析−
高知県立大学・福間 隆康要約:本研究は,国内の特例子会社9社に勤務する人事担当者・現場管理者等14名への半構造化面接に基づき,精神障害のある従業員の職場定着を支える人的資源管理施策を検討した。質的内容分析を主とし,KH Coderを補助的に用いた後,帰納的に生成したカテゴリーをJD-Rモデルにより理論的に整理した。その結果,仕事の要求度5カテゴリー,組織レベルの要求条件1カテゴリー,仕事の資源9カテゴリー,および個人資源に対応づけられる本人側資源2カテゴリーが整理された。
アフォーダンスの調整を通じた、神経発達症(発達障がい)の方への就労支援の可能性
神戸大学・関島 直樹要約:神経発達症(発達障がい),特に自閉スペクトラム症(ASD)において見られる実行機能障害は,当事者の視点からは「行為のまとめあげの困難」として捉え直すことができる(綾屋, 2022).本稿では,神経発達症当事者が直面する実行機能障害を,アフォーダンスの知覚と選択の齟齬が原因で生じる困難として捉え直す(森, 2018; 綾屋, 2022).その上で,経営学におけるアフォーダンス概念の議論を振り返り,神経発達症支援におけるアフォーダンス概念の有用性について検討する.
これからの熱中症対策のあり方
-改正労働安全衛生規則に着目して-
新潟大学・雨夜 真規子要約:近年、熱中症による労働災害が深刻化する中、職場の熱中症対策の強化が改正労働安全衛生規則により2025年6月から事業者に義務づけられている。当該規則では、熱中症の「初期対応」に重点をおくが、その前段階にある「予防」措置こそ重要である。熱中症による労働災害の訴訟では、事業者が熱中症「予防」を十分に行い、安全配慮義務を履行していたかが問われる点に鑑み、事業者として「予防」を念頭にいかなる対策を講じなければならないかにつき論じる。

