2022年全国大会 7月9日 報告要約
中途採用行動から見る企業の雇用慣行
JILPT西村純 法政大学キャリアデザイン学部梅崎修 JILPT藤本真要約:雇用慣行の理念型として、新卒採用中心の「長期雇用慣行型」(日本)と中途採用中心の「雇用流動型」(欧米) という理解が定着している。 では、中途採用の増加は、日本の雇用慣行の転換の表れなのか。 本稿は中途採用行動に関するインタビュー調査(20社)に基づき、この点の検証を行う。 分析より、①「長期雇用慣行」を維持した上で実施されるものと「雇用流動型」の下で実施されるものがあること、 ②雇用慣行の転換を伴う中途採用は見られなかったことが明らかとなった。
60 代後半層の雇用理由と人事労務管理
労働政策研究・研修機構 藤本 真要約:2021年4月施行の改正高年齢者雇用安定法により、「70歳までの就業確保措置」が努力義務化され、 今後は60代後半層の雇用・就業に関わる「強制的圧力」がより強まると考えられる。 強制的圧力を受けた状況で進められる60代後半層を対象とした人事労務管理がどのような内容を持ちうるかについて展望するため、 本稿では、高年齢者の雇用確保を社会的要請として捉えて60代後半層の雇用・就業を行っている企業の人事労務管理の特徴を 明らかにしようと試みた。
相対的指標を用いた昇進施策効果の評価に関する探索的研究 ―女性活躍推進に係る企業行動に着目して―
関西学院大学大学院研究員・車田絵里子要約:本研究では、男女の管理職登用の均等度をみる相対的指標として「登用比」を用い、 女性活躍推進に係る企業の行動に着目した分析を行った。 結果、女性の管理職登用が進んでいない企業群ほど、女性の職域や職務拡大を図っている傾向にあること、 個別分析では、経営戦略として女性活躍を推進している企業、法的要請への対応段階と考えられる企業と、 一様でない様子が観察された。
リサーチ・アドミニストレーター(URA)のキャリア
常葉大学・鈴木章浩早稲田大学・村上由紀子
要約:本研究では主要な国立大学へのインタビュー調査によりURA のキャリアを分析した。 その結果、先駆的な大学がURA を組織内で育成し始めていることが分かった。 また、URA は任期付き雇用が多く自発的な転職ばかりとは言えない中、 国の質保証制度等がURA の同一職業内でのバウンダリーレス・キャリアを後押ししつつある。 あわせて、URA は民間企業を辞めた中高年の就業機会になっており他職種からの組織間移動も観察された。
キャリア初期の上司および上司行動と,その後の職務関連意識とキャリア意識
~ある企業の若手社員追跡データによる分析
京都先端科学大学経済経営学部・岡嶋裕子要約:「自律的なキャリア形成」が求められる昨今,組織や職場はどのような形でキャリア開発をサポートできるだろうか。 本研究では,キャリア初期の上司および職場環境に着目し, それらがその後のキャリア意識および職務関連意識に与える影響を考察する。 ある企業の若年層社員を入社後から追跡したデータを用いて, 就業初期の上司行動や職場環境が中堅社員となってからの職務満足,勤続意思,キャリア意識に与える影響を分析する。
「とりあえず進学」希望者のキャリア成熟過程の縦断的研究
千葉経済大学・中嶌 剛要約:本研究では,コロナ禍において、曖昧な進学動機で高等教育機関(大学・短大等) を目指す高校3年生の心理的要因を探索的に検討した上で、 「とりあえず進学」という意識・姿勢の変化がキャリア意識の醸成とどう関連付けられるのかを パネルデータを用いて縦断的に検討した。 進学に対する「とりあえず」意識の高まりは、学習意義や目的意識の不足に起因しており、 安全・安心志向に基づく自己決定との関わりが強い。 また、自己効力感と「とりあえず就職」意識との正の関連性から、大学進学における目的意識は曖昧であり、 自己の確立ができていないものの、当面の目標は“ともかく就職先は決めたい”という心理構造が抽出できた。 得られた知見は、課題や決定の先送りをする大学進学者に対する適切なキャリア介入の提案にも繋げられる面があると考える。
環境変化を知覚し適応を促す組織デザインの実践と効果測定
慶應義塾大学 佐藤優介慶應義塾大学 羽生琢哉
慶應義塾大学 白坂成功
要約:現代のような変化の大きな時代(VUCA)において、環境変化に適応することは組織にとって最重要事項である。 しかしながら組織デザインの領域では、その効率性の追求と環境適応の両立の手法についてはまだコンセンサスが得られていない。 そこで今回は上記の両立を目指す「エビデンスベースドマネジメントに基づいた組織デザイン」の手法を提案した。 実施後の効果測定では、組織デザインの結果アンラーニングなどが促進され、 環境変化に適応する重要性を知覚していたことが分かった。
経営環境の変動に対処する企業の変革メカニズム:製造業L社の事業構造・組織体制・人材育成に注目して
同志社大学大学院 社会学研究科 博士後期課程・霜永智弘要約:本研究は製造業L社への聞き取り調査を元に、経営環境の変動が企業の変革メカニズムに与える影響を検討した。 結果、(1)事業構造を商材販売型からソリューション型へと変化させた。(2)新事業構造を達成すべく、 内部資源の交換と外部資源の獲得で組織体制を整備し、人材開発部が能力要件を特定し人材育成制度を策定した。 (3)日本企業は事業構造・組織体制・人材育成を連続的に変化させて変革を果たす達成条件が示唆された。
新規事業開発における組織デザインと人事管理
法政大学キャリアデザイン学部・梅崎修労働政策研究・研修機構・西村純
要約:本報告の目的は、新規事業開発に焦点を当てて事業戦略を生み出す組織デザインと人事管理の関係について 明らかにすることである。 分析から能力観の転換を伴う改良型の能力主義が導入されていることが明らかとなった。 抜擢を可能にする「職能」の利点と人件費コストの抑制という「コンピテンシー」の利点を失うことなく、 事業創出に向けて人事が即時的な対応を行っていくために、 新たな能力観として「ポテンシャル(成果を生み出す可能性)」が重視されるようになった。
「学生」「大学」「企業」の視点からのインターンシップ研究の考察 2012 年から2021 年の10 年間のタイトルによる文献調査
名古屋産業大学・今永典秀要約:2012年から2021年の10年間を対象期間に,スコーピング・レビューの手法を用いて 「インターンシップ」で文献調査を実施した。 重複・除外文献を考慮した987件を対象に,タイトルで 「学生」「大学」「企業」「海外」「地域」「その他」に判別した。 調査の結果,企業向けの研究割合が学生・大学と比較して小さく, 特に就職・採用に関する研究の割合は小さく,企業の人事担当者の役割や能力などに関する研究は限定的で, 短期・オンライン研究は少ないことが確認できた。
DX 時代における「新たな学習する組織」構築を担う企業内大学
公立大学法人 宮城大学・大嶋 淳俊要約:デジタル変革(DX)が急激に進展する大変革期において、 組織的かつ自律的な成長を促す「“学習する組織”を推進するプラットフォーム」として注目されているのが 「企業内大学」である。近年、AI やビッグデータなどDX 分野の研修に特化したもの、 ダイバーシティ推進に特化したもの、学習の基盤全体をオンライン上に構築するもの、 さらにタレントマネジメントとの連動を試みるなど大きな変化と新たな課題が生まれている。
大学人の働き方 非営利組織へのコミットメント
北海商科大学・堤 悦子要約:大学の専任教員の働き方は、経営学的にいえば、大規模な大学は上場企業、 小規模な大学はワンマン経営の中小企業組織に従事しているようにみえる。 しかし企業と異なるのは定款ではなく寄付行為とされ、公益ゆえに税が優遇されつつも、 大学の自治が保障されている点である。特に私立大学の専任教員は、 自由度の高い教育を可塑性のある学生に施すという自覚をもって働くことが重要である。 そして非営利組織として社会に奉仕している精神で教育と研究がなされるべきである。
HRM 施策と組織コミットメントの関係における一貫性知覚の影響
名古屋経済大学・大曽暢烈 中京大学・櫻井雅充要約:本報告では,従業員のHRM 施策に対する一貫性知覚に着目して,一貫性知覚が組織コミットメントに与える影響, およびHRM 施策と組織コミットメントの関係性における一貫性知覚の調整効果について検討した。 分析結果から,一貫性知覚が情緒的コミットメントを高めること,および一貫性知覚が低い場合にHRM 施策が 継続的コミットメントを高めることが確認された。
Linking Leader Overqualification to Follower Organizational Citizenship Behaviour: The Role of Leader Identification
Okayama University • Yuanyuan GongAbstract: Research on overqualification predominantly focuses on self-perceived overqualification of employees and relies on intra-individual processes to account for the impacts on employee attitudes and performance. Drawing on the personal identification process, we propose that leader overqualification, rated by followers, promotes follower identification with the leader, increasing follower organizational citizenship behavior towards the leader (OCBS). Meanwhile, the identification process is moderated by followers’ personal attributes, namely narcissistic admiration and narcissistic rivalry. We tested this model using time-lagged, multisource data. The results supported a significant and indirect relationship between leader overqualification and follower OCBS via leadership identification, which was stronger among followers with higher levels of narcissistic admiration while weaker among followers with higher levels of narcissistic rivalry.
スキル・ミスマッチを決定する要因 ―仕事の自律性と上司の影響―
摂南大学経済学部・平尾智隆要約:本研究では,仕事の自律性と上司の影響に注目ながらパネルデータを用いて, 従業員のスキル・ミスマッチ,特に非効率な状態とされるスキル過剰を決定する要因を明らかにする。 分析の結果,①「仕事の進め方に自分の意見が反映されている」場合,スキル過少とスキル過剰がともに発生しにくいこと, ②「上司が現場の意見を年度目標に反映させている」とスキル過剰が発生しにくいことが明らかとなった。
入職後の前職スキル活用度が転職意思に与える影響
~自律的キャリア志向,前職スキル活用度に着目した実証分析~
同志社大学・田中秀樹要約:本研究では,未経験者に比べて自律的キャリア志向を持つ傾向にある転職経験者の転職意欲抑制に対する 前職スキル活用度の影響を検討した。 転職経験者(N=4195)のサンプルを分析した結果,現職場で前職スキル活用度の高さが 転職意欲を抑制していることが明らかになった。 転職者の前職経験やそこで培ったスキルを十分に発揮できる仕事・役割をアサインしているかどうかを 吟味することが転職者のマネジメントにおいて重要であることが示唆された。
柔軟性志向のHRM と事業戦略の垂直適合
-組織レジリエンスの媒介によるコロナ禍における組織パフォーマンス-
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所/東京都立大学・藤澤理恵株式会社リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所・藤村直子
東京都立大学・西村孝史
要約:HRM と戦略の適合(垂直適合)の観点から、 柔軟性志向のHRM(Flexibility orientedHRM:FHRM)と事業戦略の適合がコロナ禍における組織レジリエンスという 人的資本の形成を促進するか、また、組織業績を高めるかを検証した。 2 時点調査の分析から、FHRM が組織レジリエンスを高める効果に柔軟性戦略との交互作用が確認されたが、 組織レジリエンスから組織業績への効果には戦略との交互作用は見いだされなかった。
人事施策の調整的柔軟性の要因としてのHR の強さ
―変更された人事処遇制度に対する従業員の知覚に着目して―
神戸大学大学院経営学研究科・穴田貴大要約:本稿の目的は,人事管理が機能する上で重要となる従業員に知覚されるHRの強さに着目し, 人事施策の調整的柔軟性の要因を明らかにすることである。 人事処遇制度が変更されたX社の社員13名に探索的なインタビューを行い,M-GTAを参考に分析を行った。 結果,与件としての人事制度の存在,雇用の安定を損なわない変更を従業員が知覚することで, 人事施策の変更後にHRの強さが知覚され,人事施策の調整的柔軟性の形成に繋がることが示唆された。
生活全体における職場のワーク・ライフ・バランス・マネジメントの重要性
高松大学・松繁寿和日本アイ・ビー・エム株式会社・松隆佑樹
要約:ワーク・ライフ・バランスに関する職場マネジメントが、 仕事の満足度だけでなく結婚や友人関係の満足度をそれぞれどれだけ上げるか、 さらに、生活全体の満足度をどれだけ上げるかをパネルデータで分析する。 推定結果は、生活全体における仕事の満足度と結婚の満足度の比重が男女間で異なること、 特に、女性正規雇用労働者に関して、結婚と友人関係の満足度に大きく影響し、生活全般に関する満足度を改善することを示す。
ワーケーションなる働き方の可能性
山梨大学 田中敦 ・山梨大学 西久保浩二要約:働き方改革の流れやコロナ禍に伴いテレワークが急速に拡大し様々な新しい働き方が模索され始めるようになるなかで 「ワーケーション(Workcation)」の注目が高まる一方、政府の後押しにもかかわらず 制度導入には消極的な企業がまだ多数を占めている。 本稿では、ワーケーションとテレワークの経験の有無から従業員を三種に分類し比較を行うことで、 この新しい働き方の課題や経営的効果に関しその可能性を検証する。