2023年全国大会 6月17日 報告要約
日本企業における性的マイノリティ取り組みの捉え方と新たな方向性
〜文献レビュー研究を用いて〜
立命館大学経営学研究科 博士課程後期課程 3 回生・閻 亜光
要約:本研究は、日本企業における性的マイノリティ当事者に関する取り組みの過去を踏まえて、学術および実務貢献を発見することを目的とする。日本企業における性的マイノリティ取り組みおよび当事者の捉え方を分析した上、取り組みを実施する際に共通する企業側の難点と個人側の難点を明示し、そのような難点を解決する新たな方向性とアプローチ方法を提案する。KJ 法を用いて、分家レビュー研究を行った。
転職行動の男女差:転職前後のタスク距離に着目して
労働政策研究・研修機構 ・小松 恭子
要約:本研究は、転職前後の職業移動やタスク距離に着目して、ホワイトカラー労働者の転職行動の男女差について検証した。実証分析の結果、転職前後の職業移動やタスク距離の規定要因は男女で異なり、男性と比較すると、女性は高度な仕事経験が転職の場面で活かされていないことが明らかになった。分析結果は、少子高齢化による労働力の確保や企業の競争力向上の必要性が高まる中で、高度な仕事経験を持つ女性のスキルが有効に活かされるような環境の整備の重要性を示唆している。
働き方や上司のマネジメント方法等の職場環境が更年期女性に与える影響
中央大学大学院戦略経営研究科博士課程・橡尾麻未
要約: 46~55 歳の女性社員を対象に実施した調査データから、職場のストレスと更年期症状の関係、さらにそれらが仕事上のパフォーマンスにどのような影響を及ぼすかを調べた。 分析の結果、仕事上のストレスが更年期症状を重くすることが確認された。同時に、勤務場所の柔軟性や中抜け勤務のしやすさ、さらにWLB管理職の存在は,仕事上のストレスの頻度を低下させることを通じて、更年期症状の悪化や仕事上のパフォーマンス低下を抑制することが明らかにされた。
育休からの復職者の仕事配分と人事評価
―育休を取得した男女の比較―
甲南大学・奥野明子金沢学院大学・奥井めぐみ
関西学院大学・大内章子
要約:本研究の目的は、育休を取得した男女の復帰後の仕事配分と人事評価の違いを明らかにすることである。育休取得男性(n=215)と育休取得女性(n=282)の、復職後の仕事配分と人事評価を比較した。その結果、男性は復職後年数が経つにつれて成長につながる仕事が配分されるのに対し、女性はそのような変化が見られなかった。また、成長につながる仕事の配分が人事評価を高めることをから、育休取得女性の人事評価は、育休取得男性と比べて低くなることが考えられる。
女性のキャリア意識における初職での職場環境の影響分析
心理的安全性に着目して
京都先端科学大学 経済経営学部・岡嶋裕子
要約:女性労働力率の「M字カーブ」は長い目でみて解消に向かっていると言われるが,硬直的な日本企業での働き方を背景に,依然として柔軟な働き方として非正規雇用を選択する女性は多い。本研究では有配偶者女性のキャリア意識に影響を与える要因として,心理的安全性に着目し,現時点とキャリア初期の職場の影響について検証する。分析の結果,初職職場での心理的安全性は正規雇用のキャリア意識と正の関係にあり,非正規雇用の場合は現職の心理的安全性が関係することが分かった。
多様な人事制度は女性従業員の定着を促すか
企業パネルデータを用いた分析
明海大学・寺村絵里子
要約: 本稿は企業内の多様な人事制度に着目し、これらの諸制度が女性従業員の定着を促したかどうかについての検証を試みるものである。ESG 投資に関するエンゲージメント・維持の代理変数として離職率及び離職理由に着目した。予備的分析の結果、複線型人事制度が早期離職、自己都合、会社都合退職の離職率を下げる効果、テレワーク導入が自己都合退職の離職率を下げる効果等を得た。専門性や勤務場所などより細やかな選択を可能とする制度導入が、女性従業員の定着を促す可能性を示唆している。
フィンランド、ソーシャル・ファームにおける障がい者の就労支援に関する研究
障がい者の仕事能力、インクルージョン、ウェル・ビーイング
横浜国立大学・二神枝保お茶の水女子大学・チンテザ アンドレア コリナ
要約:本研究では、フィンランドにおける障がい者の就労支援の好事例である ILONA プロジェクトを分析する。ILONA プロジェクトでは、障がい者がディーセント・ワークを実現できるように、ソーシャル・ファームや大学、行政、非営利組織等が連携しながら、就労支援クラスターを形成する。職業訓練によって、障がい者の仕事能力、インクルージョン、ウェル・ビーイング等にも向上がみられる。障がい者の潜在能力を開発し、社会に包摂する ILONA プロジェクトは、日本にとって示唆に富む。
When do resilient employees work harder?
Exploring the moderating roles of overqualification and family motivation
Okayama University • Yuanyuan Gong
Abstract: Drawing on the conservation of resources (COR) theory, this study sought to examine the relationship between individual resilience and work effort, as well as the moderating roles of overqualification and family motivation, which present distinct forms of resources in the on- and off-the-job domain. Results from a two-wave sample (N= 220) in China indicated that individual resilience was positively related to work effort. In particular, the positive relationship was stronger when employees were overqualified or high in family motivation.
衛星画像を用いて労働力人口を推定できるか
建物形状データとタイ労働力調査結果を用いて
長崎大学経済学部・宇都宮 譲
要約:本研究は、アロメトリーに依拠しつつ建物面積から労働力人口を推定することを目的とする。対象はタイ王国各都県である。建物面積は、Microsoft 社が提供する建物データから都県を取得後に算出した。都県別労働力人口はタイ労働力調査から推定した 2020 年第 1 四半期における値を用いた。結果、建物面積は労働力人口を精度よく予想し得ることが明らかになった。データ範囲に由来する差異や極端に労働力人口が多い地域があることを考慮することが課題である。
批判的 HRM(Critical HRM)の文献レビュー
——HRM 論における批判的アプローチの特徴・展開・課題——
神戸大学大学院 経営学研究科 博士課程後期課程 1 年・米田 晃
要約:本報告では、批判的 HRM(Critical HRM:CHRM)の文献レビューを通じて、その特徴・展開・課題について検討を行う。文献レビューの結果、CHRM では、レトリックと現実のギャップに対する批判的研究、管理過程における管理者-従業員の認知・認識への着目、一元論的な HRM への批判、主流派HRM 論の知見との統合という四つの論点が主に論じられてきたことが判明した。全体を通じて、主流派HRM 論と CHRM は異なる志向性を有するが、協働して研究を進めることが必要であることを主張する。
リスク調整後のキャッシュフローの現在価値の観点から見る正社員制度
−給与水準と解雇確率を上げることについて−
⽂京学院⼤学 准教授・⼭⻄均
要約:正社員の解雇確率を現状より引き上げた場合、どの程度給与水準を引き上げれば会社・正社員の双方にとってリスク調整後のキャッシュフローの現在価値を同一に保つことができるかを試算する。結論としては新卒 15 年目(30 歳代後半)の正社員を前提とすると、たとえば解雇確率 1.5%(米国労働市場と同程度)で給与水準 16%程度、解雇確率 5%で給与水準を 64%程度引き上げることでそれを同一水準に保つことができる。
クロスボーダー従業員移動における人材マネジメント
海外派遣後の帰任者を事例として
東海大学・内藤陽子
要約:従業員移動研究の中でも会社から海外に派遣された後の帰任者の活用に関する研究には,帰任者による知識移転と帰任者自身の新組織への定着という2つの流れがある。両分野の有意義な研究が蓄積される一方で,その両者の関係が不明瞭であるために,それらを促進する具体的な方法の特定だけではなく,帰任者の本質的な人材活用の検討さえも困難になっている。そこで私は,帰任者の効果的な知識移転に軸を置き,それと組織定着の両立を目的とした理論を構築するための研究を行った。
次世代経営リーダー育成 3.0
発展段階と課題に関する研究
公立大学法人 宮城大学・大嶋 淳俊
要約:日本企業の最重要課題の一つとして、次世代経営リーダー育成プログラム(NLP)が 取り組まれてきた。過去 15 年間の企業事例研究を戦略的タレントマネジメント(STM)の視点を重ね合わせることで、2000 年代の取り組みは「NLP 1.0」、2010 年代は「NLP 2.0」、 DX やコロナ禍で大変革が迫られた 2020 年前後以降は「NLP 3.0」と発展段階で分類できることがわかった。STM 論との関係を踏まえて、NLP の発展と課題を考察する。
タレントマネジメントと日本型人事管理の 関係性についての試論
従業員視点からの検討
流通科学大学商学部・柿沼 英樹
要約:タレントマネジメント(TM)と日本型人事管理の関係性について、経営陣や人事部門が持つ管理思想(TM 哲学)とライン管理者が実際に行う施策(TM 施策)の双方に対する従業員知覚をもとに検討した。日本企業に働くホワイトカラー1,116 名から得た回答を分析した結果、TM 的な管理思想を知覚する従業員群と日本型人事管理的な管理思想を知覚する従業員群のあいだには、施策に対する知覚に有意な差が認められなかった。この結果についての解釈を示し、今後の TM 研究の方向性を論じる。
「フリーランス営業という働き方における課題と可能性」
―業務委託営業を活用する企業による生命保険営業職の応用事例から―
昭和女子大学・清水直美大正大学・大橋重子
帝京平成大学・瀬戸山聡子
要約:様々な環境変化の下で、正社員以外の多様な就労者を活用する企業が増加しつつある中、近年はフリーランス、業務委託といった働き方が注目を集めている。こうした中、本研究では生命保険営業職の働き方を応用して業務委託営業を活用している企業への調査を通して、その働き方の課題と可能性を明らかにすることを目的としている。その結果、生命保険営業職との比較を通して、最適な活用モデルを考察し、それらを支える要素として教育訓練が重要な役割を果たすことが示唆された。
副業・兼業労働者に係る安全配慮義務と労務管理
和歌山信愛女子短期大学・雨夜 真規子要約:近年、副業・兼業に対する関心が高まる中で、副業・兼業労働者を雇用する使用者が負うべき安全配慮義務をいかに解し、労務管理上いかなる措置を講ずるべきかについては、現時点において労務管理の現場で認識が共有されているとはいい難く、重要な課題となっている。近時、この課題に一定の示唆を与える裁判例が示されたことから、本稿では本裁判例を分析することにより、副業・兼業労働者に対する安全配慮義務の内容及びそれを遵守するための労務管理上の措置について検討する。
K-Drama とキャリア育成
韓国の製作プロデューサーの事例分析を通じて
京都大学経営管理大学院・金東柱京都大学・若林直樹
要約:グローバル志向の韓国の製作会社はプロデューサーに多数の作品製作を経験させ、キャリア・キャピタルを蓄積させる。プロデューサーはチーム単位で専門化されることで、キャリア・キャピタル及びプロティアン・キャピタル構築の機会が得られることが示された。これは、アジアのコンテンツ企業における組織的なキャリア・キャピタルの構築の可能性を示唆する。研究手法として、韓国のドラマ製作会社 S 社の作品約 135 本とプロデューサーのキャリアパスを LinkedIn から事例分析した。
キャリア自律意識と心理的契約
偏相関分析による検討
学習院大学大学院経営学研究科・斉藤航平
要約:本研究は、キャリア自律意識の高い人材がどのような心理的契約を認識しているのかを探索的に検討したものである。偏相関分析を行った結果、キャリア自律意識の高い人材は、組織の義務のとして、長期雇用保障を重要視する傾向が低い一方で、魅力的な仕事提供を重視しており、一方で従業員の義務について、組織権限の受容はキャリア自律意識と有意な関係が認められず、自己の義務を果たすことの重要度が高いことが明らかになった。