PSRI 早稲田大学パブリックサービス研究所


 



公会計改革推進研究会座長
パブリック・ディスクロージャー表彰審査委員長
日本社会事業大学学長・東京大学名誉教授
神野 直彦
パブリック・ディスクロージャー表彰2020の審査報告
 不可思議な感慨を覚えながら、「パブリック・ディスクディスクロージャー表彰2020」の審査結果を報告したい。表現のしようのない感慨に耽るのは、「2020」という一年が新型コロナウイルス感染症という「未知の病」のパンデミックに襲われた一年だったからである。年齢を重ねると、記銘力が衰え、一年前の記憶が茫漠としてしまう。しかし、移ろいかけている記憶を呼び覚ますと、一年前の「パブリック・ディスクロージャー表彰」が既に、パンデミックに苦悩していたことがわかる。その際にも、パンデミックを克服するには、地域コミュニティを再創造することが重要な要素となり、地方自治体の財政運営の責務が急速に高まることを指摘していた。
 ところが、一年が経過しても、パンデミックはますます猛威を振るうばかりで、地方自治体を翻弄している。パンデミックのように人間の社会を外側から襲う外在的危機は、人間の生命を維持する正常な生活活動を脅かす。そのため地方自治体は地方財政を有効に機能させて、地域社会で営まれる人間の生活活動を、パンデミックに適応させていく使命がある。
 もちろん、パンデミックへの応急的復旧段階から脱すれば、崩された地域社会の生活活動を再創造する本格的復興段階へと歩を進める責務が地方自治体にはまっている。しかし、激しさを増すパンデミックの前にして地方自治体は、応急的対応に奔走することが精一杯という状況に追い込まれている。
 こうした非常事態に苦悩している時期にもかかわらず、荒川区、精華町、習志野市、浜松市、町田市という五つの地方自治体が、「パブリック・ディスクロージャー表彰」に参加されたことに、心からの感謝と畏敬の言葉を捧げたい。確かに、昨年の参加地方自治体が七つを数えたのに比べると、参加数が減少したことは間違いない。しかし、パンデミックが非常事態を生じさせたにもかかわらず、断絶的変化が認められなかったことに、むしろ驚きを感じている。それだからこそ、五つの地方自治体が参加するために払われた労苦の大きさに思いを馳せ、ただただ敬意を表するものである。
 この「パブリック・ディスクロージャー表彰」は「アニュアル・レポート部門」、「ポピュラー・レポート部門」、「マネジメント・レポート部門」の三つの分野に分けて表彰することになっている。審査は第一次審査と第二次審査という二段階で実施している。こうした厳正かつ公正を期した審査結果を報告すれば、以下のとおりとなる。
 「アニュアル・レポート部門」では浜松市と荒川区が高く評価され、前回に引き続いてではあるけれども、グッド・プラクティス賞を授与することにした。浜松市は情報の網羅性や目的合理的な開示方式などが、荒川区は図表などを駆使して説明責任を果そうとする姿勢などが讃えられ、受賞に結びついている。
 町田市は後述するように、マネジメント部門では高く評価されているけれども、アニュアル・レポート部門としては情報の整理方法などにより工夫を期待し、Certificate of Good Effortを授与することとした。
 ポピュラー・レポート部門では精華町が、前回に引き続いて栄えあるグッド・パブリック・ディスクロージャー賞に輝いた。精華町はすべての地域住民にわかりやすく、財政情報と会計情報を「まちの家計簿」と「まちの羅針盤」という二部構成での定着した開示が高く評価されている。
 習志野市にはCertificate of Good Effortを授与することにした。情報をコンパクトに整理していることは評価できるけれども、すべての住民にわかりやすくする情報を伝える一層の努力を期待したいからである。
 荒川区にはCertificate of Good Presentationを授与している。「財務諸表Q&A」は評価されるけれども、専門知識がなくとも平易に理解できる努力を求めたいからである。
 町田市にはCertificate of Good Mediaを授与することにした。課別・事業別に成果を示すなど評価できる点はあるけれども、決算情報や財務諸表情報を包含することなどの試みが望まれるからである。
 マネジメント・レポート部門では町田市に、グッド・プラクティス賞を授与することにした。策定されている「町田市課別・事業別行政評価シート」は完成度も高く、秀でているとして讃えたからである。
 「パブリック・ディスクロージャー表彰2020」の審査結果は、以上のとおりである。評価することは、称讃することである。この表彰制度の目的も称讃することにある。地方自治体の財政が住民の意志にもとづいて、住民のために運営されるように、発展させるべき長所を見出し、それを称讃することに意義がある。そうした表彰制度の目的が開花するように、審査委員会も努力を積み重ねていく覚悟を、述べて審査報告としたい。


早稲田大学パブリックサービス研究所所長

早稲田大学政治経済学術院教授

小林 麻理

 パブリック・ディスクロージャー表彰2020 は、今年十一回目を迎えることができました。関係各位のご協力に心から感謝いたします。
 積極的な財務情報開示と市民との情報共有を目指す地方公共団体の参加を得まして、厳正な審査のもと、ポピュラー・レポート部門では、精華町をグッド・パブリック・ディスクロージャー賞、アニュアル・レポート部門では、荒川区と浜松市をグッド・プラクティス賞、マネジメント・レポート部門には町田市をグッド・プラクティス賞に選定いたしました。応募いただいた各団体の開示への取組とその姿勢は、日本の自治体のまさに先端を行くものと評価できます。
 総務省の調査によれば、2019年3月末時点で、一般会計等財務書類の作成状況は作成済みが都道府県で93.6%、市区町村で94.8%(うち政令指定都市では100%)、またホームページでの公表済み又は公表予定が、都道府県で100%、市区町村で94.6%(うち政令指定都市では100%)という結果となっています。ここで考えていただきたいのが、財務書類の作成と公表が果たしてパブリック・ディスクロージャーといえるのか、アカウンタビリティの履行と評価できるのか、という問いです。応募いただいた団体のレポートには、団体の財政状態、運営状況について、いかに分かりやすく市民に伝えるか、また、議会の意思決定に有用な情報となっているかなどの点について、さまざまな工夫が施されています。つまり、レポートを財務書類の公表から、レポートの読み手の視点に立った財務報告(ファイナンシャル・レポーティング)とするかという視点で、開示の有効なメディアと位置付け、アカウンタビリティを果たす努力をしているということです。
 アカウンタビリティの遂行は、行政経営の透明性を高め、各自治体が抱える課題に市民とともに取り組む、受託責任(スチュワードシップ)の確実な履行に導きます。パブリック・ディスクロージャー表彰は、自治体が、住民に対するアカウンタビリティを遂行すること、グッド・プラクティスを共有して、自治体相互のイノベーションを創出することです。その大きな目的に向けて、パブリックサービス研究所は、表彰とそれによる自治体のネットワーク形成の努力を継続します。さらに多くの自治体が、このネットワークに参加することを心より希望します。





アニュアル・レポート部門



「グッド・プラクティス賞」

[東京都荒川区]

令和元年度荒川区の取組と財政状況【荒川区包括年次財務報告書】




【総  評】
 
 昨年度から続いての受賞となった荒川区は,荒川区基本構想で定めた政策・施策体系である「都市像」ごとに、行政コスト財務情報、主な取組内容、 成果指標を示している。 都市像で示される目指す方向性は、区民に親しみやすく、行財政運営における情報をバランスよく開示している。 今年度は図表なども見やすいように体裁を整えている。 今後は、より読者のニーズに応える情報の充実や分かりやすい説明を工夫することが望まれる。


[静岡県浜松市]

令和2年度浜松市の財政のすがた

令和2年度浜松市の資産のすがた




【総  評】
 
 浜松市も昨年度に引き続いての受賞。「浜松市の財政のすがた」は、他の都市との比較などを通じて、浜松市の財政状況をわかりやすく示している。 いずれの開示物も情報の質の点で完成度の高いものとなっているが、グラフィックスの効果的な活用など、より理解可能性を高める工夫が望まれる。 また、浜松市の行政上の課題とそれに対する市の取組の方向性など、市民に対するさらなるアウトリーチを図ることが望まれる。


応募団体 応募内容
東京都町田市 令和元年度(2019年度)町田市の財務諸表
令和元年度(2019年度)町田市財務諸表 ~概要と解説~

Certificate of Good Effort


【総評】概要と概説は経年比較などもあり、コンパクトにまとまっている。 財務諸表からわかることや、固定資産台帳を活用した財務分析など、市民の情報ニーズに応える工夫も見られるのに加え、 新型コロナウィルス感染症による財務諸表への影響などの記載も評価される。 今後は何を市民に伝えていくのかという観点から、財務情報とその補完情報によるわかりやすい説明など,より完成度を高める工夫をすることが望まれる。

ポピュラーレポート部門



グッド・パブリック・ディスクロージャー賞

[京都府精華町]


令和2年度まちの羅針盤 令和元年度まちの家計簿



 

【総  評】

 例年、幅広い財政情報をコンパクトにわかりやすくまとめており、完成度は高い。キャラクターを活用して、町民に親しみやすい点も評価できる。 今後は町政の課題とそれに対する町の政策をしめすとともに、統一的な基準による財務書類の情報の分析を充実させると、より完成度が高くなる。



応募団体 応募内容
 東京都町田市   令和元年度(2019年度)町田市課別・事業別行政評価シートダイジェスト

Certificate of Good Media


【総評】本ダイジェスト版では、行政サービスについて課別・事業別という単位を用いながらも、コンパクトにわかりやすく成果を示しており、 住民の情報ニーズに適合したわかりやすく、簡易な情報提供となっている。 特に財源情報は重要かつ有用な情報であり、評価できる。 誰にでも、どんな世代にも、わかりやすく、有用な情報と観点で改良を重ねていただきたい。
 東京都荒川区   あら坊・あらみぃと一緒にみる 荒川区の財務諸表(令和元年度決算版)

令和元年度決算版荒川区の財務諸表Q&A

Certificate of Good Presentation


【総評】親しみやすいキャラクターを用い、Q&A形式を採用して、荒川区の財政状況をわかりやすく示す取り組みは評価できる。 内容の理解に専門的知識が必要のものもあり、より平易かつ丁寧な記述を行うことが望まれる。
 千葉県習志野市

平成30年度 習志野市の財務報告書【概要版】

Certificate of Good Effort


【総評】バランスシート探検隊など、特色ある取り組みを行っている習志野市。本概要版はコンパクトにまとまっている点に特徴があるが、 内容を理解するには公会計の知識が必要であり、幅広い読者層に習志野市の状況をわかりやすく説明するという点では工夫が必要である。 今後は読み手の視点に立って、構成と内容をわかりやすくすることが望まれる。

マネジメント・レポート部門


「グッド・プラクティス賞」

[東京都町田市]

令和元年度(2019年度)町田市課別・事業別行政評価シート


 

【総  評】
 
 昨年度に引き続いての受賞。町田市の課別・事業別評価シートは目標と実績が対比されることにより事業の成果が説明されているなど、完成度が高い。 同種施設比較分析表や、2018年度決算で掲げた施設マネジメント改善のための取り組みなど、わかりやすい情報の提示や分析は評価される。 議会でのさらなる活用をはじめ、情報の有用性を高めて、より活用を促進することが望まれる。