PSRI 早稲田大学パブリックサービス研究所


 



公会計改革推進研究会座長
パブリック・ディスクロージャー表彰審査委員長
東京大学名誉教授
神野 直彦
パブリック・ディスクロージャー表彰2021の審査報告
 「パブリック・ディスクロージャー表彰2021」の審査結果を報告するにあたり、参加していただいた地方自治体に、深甚なる感謝とともに畏敬の言葉を捧げたい。新型コロナウイルス感染症のパンデミックに襲われた、この一年の地方自治体の労苦は、私たちの想像を越えているに違いない。人間の生活を包む自然環境と社会環境という二つの環境の破壊が深刻化している「危機の時代」を、コロナ・パンデミックが襲っているからである。つまり、「危機の時代」から地域社会が抜け出すために、地方財政の運営に苦悩していた地方自治体に、コロナ・パンデミックの対応という優先の課題が突き付けられたのである。
 とはいえ、地方自治体は、コロナ・パンデミックが地域住民の健康を、守るとともに地域社会で営まれる人間の生活を維持するために、地域財政を動員することだけに甘んずるわけにはいかなかった。というのも、地方自治体は「危機の時代」が地域社会に投げかけてくる諸課題を解決し、「危機の時代」を抜け出すヴィジョンを求めて地方財政を運営しなければならなかったからである。こうした衝突しかねない諸課題を、地方財政が解決していくための有効な手段こそ、公会計だということができる。そうした公会計の重要性が理解できていたとしても、パンデミックに襲われるという非常事態に対応する業務に追われ、この表彰に参加するまでに、公会計を充実させていく営為を積み重ねるには、並並ならぬ努力と情熱が必要なはずである。参加していただいた地方自治体の公会計への努力と情熱には、ただただ頭が下がる思いである。
 「パブリック・ディスクロージャー表彰2021」には習志野市、荒川区、町田市、浜松市、精華町、四日市市の六つの地方自治体に参加していただいている。昨年度と比較すると、新たに四日市市が参加していただいたことにより、地方自治体の参加の数が一つ増加したことになる。私は毎年、四日市高校で講義を務めたことがあるので、四日市市の参加を、懐かしい思いを込めて心より歓迎したい。
 「パブリック・ディスクロージャー表彰」は「アニュアル・レポート部門」、「ポピュラー・レポート部門」、「マネジメント・レポート部門」の三つの分野に分けて表彰している。これは公会計を三つの視角から審査し、表彰していることを意味している。審査は第一次審査と第二次審査の二段階で、厳正かつ公正に実施している。以下では「パブリック・ディスクロージャー表彰2021」の審査結果を部門別に報告することにしたい。
 アニュアル・レポート部門では、荒川区と浜松市に「グッド・プラクティス賞」が授与されている。この表彰制度に毎年度参加されている荒川区の「令和2年度荒川区包括年次財務報告書」に示された、荒川区のアニュアル・レポートとしての開示方式は、完成度が高く定着している。しかも、それが荒川区の「幸福実感都市」というヴィジョンと関連づけられて策定されていることを高く評価し、「グッド・プラクティス賞」を授与した。
 浜松市の「令和3年度浜松市の財政のすがた」でのアニュアル・レポートの開示方式は、公会計情報を普通会計の決定情報との統一基準で包括して報告している点で、高く評価することができる。しかも、豊富な資料と適切な解説が加えられ、「令和3年度浜松市の資産のすがた」も策定されていることから、「グッド・プラクティス賞」を授与して讃えることにした。
 初めて参加していただいた四日市市はアニュアル・レポートとしての充実度が高く、「健闘が光る」と評価された。そこでCertificate of Good Ambitionを授与することにしたのである。
 ポピュラー・レポート部門では精華町と町田市に「ベスト・プラクティス賞」を授与することにした。「まちの家計簿」と「まちの羅針盤」という二部構成で、広く地域住民に求めようとする精華町の報告書は、毎年度のこととはいえ、今年度もポピュラー・レポート部門として際立っていると評価された。
 町田市では「令和2年度町田市財務諸表~概要と解説~」に加えて、課別・事業別に成果を評価する「令和2年度町田市課別・事業別行政評価ダイジェスト」も、地域住民の理解を求めるように策定されている。それを高く評価して、「グッド・プラクティス賞」を授与することにしたのである。
 習志野市の「令和元年度習志野市の財務報告書[概要版]」は、昨年度のこの表彰の際の指摘などを反映させ、著しい改善がされた点を評価し、Certificate of Good Ambitionを授与することにした。
 荒川区はポピュラー・レポート部門では「荒川区の財務諸表」とともに、「荒川区の財政諸表Q&A」が作成されていることを審査対象として、Certificate of Good Presentationを授与することにしたのである。
 マネジメント・レポート部門では町田市に、この表彰制度では最高の栄誉である「グッド・パブリック・ディスクロージャー賞」を授与することにした。ポピュラー・レポート部門ではダイジェストを審査対象としたけれども、マネジメント・レポート部門では「令和2年度町田市課別・事業別行政評価シート」を完成度が高く、地方自治体の成果評価を先導する事例として高く評価したからである。町田市には心よりの賛辞を送りたい。
 審査報告を閉じるにあたり、この表彰制度を地道に支えている小林麻理教授を初め、事務局の皆様方のご尽力に、深い感動を込めて謝意を表したい。コロナ・パンデミックにしろ、ウクライナ戦争にしろ、人類が生き延びられないかもしれないという危機が、次々に生じている。それは人間の「生」を包んでいる自然環境と社会環境が破壊されているからだといってもよい。
 こうした二つの環境は地域社会から下から上へと再生していくしかない。そうした地域社会の再創造に公会計が有効に機能することを祈り、審査報告としたい。


―アカウンタビリティとスチュワードシップの重要性―

早稲田大学パブリックサービス研究所所長

小林 麻理

 パブリック・ディスクロージャー表彰2021 は、今年十二回目を迎えることができました。関係各位のご協力に心から感謝いたします。
 積極的な財務情報開示と市民との情報共有を目指す地方公共団体の参加を得まして、厳正な審査のもと、グッド・パブリック・ディスクロージャー賞に、マネジメント・レポート部門では町田市、グッド・プラクティス賞に、ポピュラー・レポート部門では精華町と町田市、アニュアル・レポート部門では荒川区と浜松市を選定いたしました。また、今回初めて応募いただいた四日市、ポピュラー・リポート部門に改めて参画いただいた習志野市につきましては、その意欲的な取り組みを評価して、Certificate of Good Ambitionを認定いたしました。応募いただいた各団体のレポートは、市民や議会をはじめとするさまざまなステークホルダーに対するアカウンタビリティとスチュワードシップの責務に対する真摯な取り組みであり、日本の自治体のまさに先端を行くものと高く評価できます。
 一方、日本の現状はどうでしょうか。総務省の調査によれば、2021年3月末時点で、全体財務書類(財務4表)については、未着手の市区町村50を残して、作成済み(83.4%)または作成中(13.8%)であるのに対して、公表については、「公表していない」が都道府県で1団体、市区町村で232団体存在しているという現実があります。さらに、「簡易に要約した財務書類を作成するなどし、住民に分かりやすく財政状況を説明した」については、都道府県では39団体(83.0%)ですが、市区町村では取り組んでいる団体は441団体(25.3%)に過ぎないという結果となっています。この現状は、何を意味しているのでしょうか。財務書類開示の重要性、住民に対する分かりやすい説明の必要性に対する驚くべき認識の欠如を示すものといって差し支えないと思います。住民に対するアカウンタビリティとスチュワードシップ(受託責任)という責務は、国でも地方でも、公共部門の重大かつ根本的な責務です。政府活動の原資が、納税者や住民、さらには将来世代の負担に負っていることを政府は厳しく認識しなければなりません。
 この点で、応募いただいた団体のレポートは、団体の財政状態、運営状況について、いかに分かりやすく市民に伝えるか、また、議会の意思決定に有用な情報となっているかなどの点について、さまざまな工夫が施されています。つまり、レポートを財務書類の公表から、レポートの読み手の視点に立った非財務情報を含む財務報告(ファイナンシャル・レポーティング)とするかという視点で、開示の有効なメディアと位置付け、アカウンタビリティを果たす努力をしているということです。
 アカウンタビリティの遂行は、行政経営の透明性を高め、各自治体が抱える課題に市民とともに取り組むスチュワードシップ(受託責任)の確実な履行を導きます。パブリック・ディスクロージャー表彰は、自治体が、住民に対するアカウンタビリティを遂行すること、グッド・プラクティスを共有して、自治体相互のイノベーションを創出すること、そして何より住民ニーズに基づく行政経営を実現することです。その大きな目的に向けて、パブリックサービス研究所は、表彰とそれによる自治体のネットワーク形成の努力を継続します。さらに多くの自治体が、このネットワークに参加することを心より希望します。





アニュアル・レポート部門



「グッド・プラクティス賞」

[東京都荒川区]

令和2年度 荒川区包括年次財務報告書




【総  評】
 
 昨年度から続いての受賞となった荒川区は,荒川区基本構想で定めた政策・施策体系である「都市像」ごとに、行政コスト財務情報、主な取組内容、成果指標を示している。都市像で示される目指す方向性は、区民に親しみやすく、行財政運営における情報をバランスよく開示している。ネクスト・ステップとしては、情報を様々な視点から分析し、そこから見えてくる課題やそれに対する政策についての説明や、財務諸表と普通会計決算の関連性についての分析があると、さらによいディスクロージャーになる。さらなる発展が期待される。


[静岡県浜松市]

令和3年度 浜松市の財政のすがた~令和2年度決算の状況~

令和3年度 浜松市の資産のすがた~持続可能な行財政運営を目指して~




【総  評】
 
 浜松市も昨年度に引き続いての受賞。「浜松市の財政のすがた」は、他の都市との比較などを通じて、浜松市の財政状況をわかりやすく示している。いずれの開示物も情報の質の点で完成度の高いものとなっている。よりリーダー・フレンドリーな開示とするために、グラフィックスを効果的に活用するなど、より理解可能性を高める工夫を期待したい。また、荒川区と同様、行政上の課題とそれに対する市の取組の方向性など、市民に対するさらなるアウトリーチを検討されたい。


応募団体 応募内容
三重県四日市市 令和2年度(2020年度)決算 四日市市 統一的な基準による財務書類(一般会計等、全体会計)

Certificate of Good Ambition


【総評】今回初めての応募であるが、財務書類に対する注記の充実、施設別行政コスト計算書の作成など、アニュアル・レポートとしての情報充実度は高い。ネクスト・ステップに向けては、連結情報や、数値情報の分析結果についての説明など、よりリーダー・フレンドリーな開示への取り組みを期待したい。また、市のホームページ上に公会計に関する個々の情報コンテンツのアップにとどまらず、情報伝達メディアとしてのアニュアル・レポートの作成という観点に留意して頂くとさらに優れたディスクロージャーになる。さらなる取り組みを期待したい。

ポピュラーレポート部門



グッド・プラクティス賞

[京都府精華町]


令和3年度 まちの羅針盤 令和3年度 まちの家計簿



 

【総  評】

 例年、幅広い財政情報をコンパクトにわかりやすくまとめており、完成度は高い。キャラクターを活用して、町民に親しみやすい点も評価できる。今回、グッド・パブリック・ディスクロージャー賞からグッド・プラクティス賞に評価した理由は次の点による。一つは、開示の大部分がフローの情報となっており、統一的な基準による財務書類の情報を用いたストック情報の開示や中長期の趨勢分析情報が十分ではなかったことである。もう一つは、フロー情報を中心とした場合に、家計簿と羅針盤の関係、すなわち予算と決算についてのリンケージ情報に十分な配慮がされていないことである。全戸配布であり、しかも町民にとって親しみやすく、理解可能性も高いという点の評価に変わりはない。今後は、統一的な基準による財務書類の情報を活用したストック情報、そこから見えてくる町政の課題とそれに対する町の政策を示すことなどにより、より完成度を高めることを期待したい。


[東京都町田市]


令和2年度(2020年度)町田市の財務諸表~概要と解説~
令和2年度(2020年度)町田市課別・事業別行政評価シートダイジェスト



 

【総  評】

 昨年度のアニュアル・レポート部門でのエントリーから、今年度はポピュラー・レポート部門でのエントリーに変更しての受賞。概要と解説は経年比較がなされており、コンパクトにまとまっている。また今年度は「祝 新公会計制度導入10周年!」と題し、2012年と2020年の比較分析を行っている点が特徴的である。また、昨年度から引き続き、新型コロナウイルス感染症による財政上の影響についての説明がある点も評価できる。行政評価シートダイジェストでは、行政サービスについて課別・施設別という単位でコンパクトにわかりやすく成果を説明しており、住民の情報ニーズに適した情報を提供している。より一層の充実化、有用化に向けた改良を期待したい。



応募団体 応募内容
 千葉県習志野市   令和元年度 習志野市の財務報告書【概要版】

Certificate of Good Ambition


【総評】習志野市は毎年、特色ある取り組みを行っている。今年度は公共施設等再生へ向けた地方公会計の活用を取り上げている。その中でも注目すべきは、予定財務書類に関する情報が掲載されている点である。現在の投資が将来の財政にどういった影響を及ぼすか、という問題提起は重要な視点であり評価される取組みである。本概要版はコンパクトにまとまっているはいるものの、内容を理解するには公会計の知識が必要であり、幅広い読者層に習志野市の状況を理解してもらえるような工夫が求められる。そういった工夫は求められるものの、特色ある取り組みを毎年続けているという点を評価し、昨年のCertificate of Good Effortから今後のますますの取組を期待してCertificate of Good Ambitionとなった。
 東京都荒川区   あら坊・あらみぃと一緒にみる 荒川区の財務諸表(令和2年度決算版)

令和2年度決算版荒川区の財務諸表Q&A

Certificate of Good Presentation


【総評】親しみやすいキャラクターを用い、Q&A形式を採用して、荒川区の財政状況をわかりやすく示す取り組みが評価された。アニュアル・レポートの幸福実感都市の都市像別分析との関連が見える工夫が望まれる。

マネジメント・レポート部門


「グッド・パブリック・ディスクロージャー賞」

[東京都町田市]

令和2年度(2020年度)町田市課別・事業別行政評価シート


 

【総  評】
 
 昨年度のグッド・プラクティス賞からグッド・パブリック・ディスクロージャー賞にランクアップしての受賞。これまでも町田市の課別・事業別評価シートは目標と実績が対比されることにより事業の成果が説明されているなど、完成度が高い。特に今年度は同種施設比較分析情報の一層の充実が図られており、丁寧に分析した情報をわかりやすく提示している点は評価される。議会での活用をはじめ、丁寧な分析により情報の有用性をより一層高めて、議会での活用をはじめ、さらなる活用促進を進めていくことが望まれる。